『賃貸の「火災保険」は、なぜ必要か?』暮らしっく不動産が教える、火事以外に潜む“本当にヤバい”3つの高額リスク
こんにちは! 暮らしっく不動産の門傳です。
賃貸のお部屋探しの契約時、僕たち不動産会社から「火災保険(家財保険)に入ってくださいね」と、ほぼ必ず案内されると思います。
正直、こう思いませんか?
「え、なんで強制なの?」
「自分、火事なんて起こさないし、いらなくない?」「高い...」など。
そう思う気持ち、すっごく分かります。でも僕たちが「絶対に入ってください!」と強くオススメするのは、脅しでもノルマでもなく(笑)、本気で皆さんの新しい生活を守りたいからなんです。
「火災保険」という名前が、最大の誤解!
実はこの保険、「火災保険」という名前が一番の誤解のもと。
もし名前を付け替えるなら、「賃貸生活の“ヤバい”リスク全部入りパック」が正解です。
実際に、ある保険商品(※アクア少額短期保険「住まいるパートナー」)の事故データを見ると、事故原因の1位は「水漏れ」、2位は「盗難」。なんと「火災」はそれ以下なんです。
この「全部入りパック」、中身は大きく3つに分かれています。
- ① 家財補償
守る対象: 「あなた自身の財産(モノ)」
目的: 火事や水濡れ、盗難で失った自分のモノ(PC、服、ベッドなど)を買い直すため。 - ② 賠償責任補償
守る対象: 「他人(大家さん・お隣さん)」
目的: 法律上の賠償責任で、他人や大家さんにお金を払うため。(これが一番コワい) - ③ 修理費用補償
守る対象: 「あなたが借りている部屋」
目的: 「うっかり」壊してしまった部屋の設備(洗面台とか)を修理するため。
火事「だけ」じゃない、この3つのリスク。
「自分は大丈夫」と思っている人ほど知ってほしい、この保険の本当の価値を解説します!
【暮らしっく不動産のホンネ ①】
この火災保険は、大家さんを守るためでもあるけど、 結局は入居者さんが破産しないためのお守りなんです。
自分は注意していても、思わぬ事故というのは起こります。
リスク①:あなたの「全財産」を守る【家財補償】
一番「いらない」と思われがちなのが、この「家財補償」かもしれません。
「自分は火事を起こさないし」
「どうせ高いモノなんて持ってないし」
その2つの思い込みが、実は一番危険です。
衝撃の事実:「もらい火」は、誰も弁償してくれない
最大のリスクは、自分が火事を起こすことより、隣の部屋の火事に巻き込まれる「もらい火」です。
ここで、日本の法律の厳しい現実があります。
「失火責任法(しっかせきにんほう)」という法律のせいで、もし隣の家が火事(※)になり、あなたの部屋が丸焼けになっても、原則、あなたはお隣さんに損害賠償を請求できません。
(※よっぽどヒドい過失、例えば「天ぷら油に火をかけたままパチンコに行った」とかじゃない限り、無理なんです)
「え、じゃあ誰が補償してくれるの?」
- 大家さんの保険?
→ 大家さんの保険は「建物(ハコ)」を直すだけ。あなたの私物(家財)は対象外です。 - 火元のお隣さん?
→ 「失火責任法」で原則請求できません。
(※補足:もしお隣さんの火災保険に「類焼損害特約」が付いていれば、そこから補償される可能性はあります。最近は加入している方も多いですが、入っていないリスクも考えておくべきです)
そう。基本的には誰も補償してくれないんです。
服も、ベッドも、PCも全部失って、泣き寝入りするしかない。この「補償の空白地帯」を埋められるのは、自分が入る「家財補償」だけなんです。
「自分に財産ない」はウソ? あなたの家財、総額いくら?
「いや、燃えたって別に…財産ないし」
そう思ったあなた。今、部屋にあるモノを「全部新品で買い直したら」いくらになるか、想像してみてください。
多くの人が「引っ越し初期費用で買った家電くらい(20〜30万円)」と思っていますが、それは大きな間違い。
保険の評価(再調達価額)では、ワンルーム(18㎡未満)でも「200万円〜300万円」が目安とされています。
「なんで10倍も違うの!?」
それは、皆さんが「大物家電」しか見ていないから。
- 皆さんの想像: 冷蔵庫、洗濯機、ベッド(=約20〜30万円)
- 実際の全財産: +(掃除機、PC、ゲーム機、ドライヤー)+(ソファ、本棚、カーテン)+(クローゼットの中の全衣類、靴、バッグ)+(本、CD、食器、趣味の道具…)
これ全部買い直したら…ゾッとしませんか?
この「200〜300万円」の資産は、「もらい火」以外にも、
- 上の階からの「もらい水」(PCが水浸し…)
- 落雷(家電が一気に故障…)
- 台風(窓が割れて暴風雨が…)
- 盗難(現金や自転車が盗まれた…)
こんなリスクにも常にさらされています。家財補償は、この「あなたの全財産」を守るための盾なんです。
【暮らしっく不動産のホンネ ②】
PCでもノートパソコンは対象外というケースが多いです。
最近ではノートパソコンが多いと思いますので、パソコンでお仕事されている方などは必ず確認しておきましょう。
リスク②:人生が変わる高額賠償に備える【賠償責任補償】
家財補償(数百万)が「自分のため」なら、この賠償責任補償(数千万〜億)は「他人のため」。
ぶっちゃけ、賃貸保険の中でこれが一番大事で、一番コワいリスクへの備えです。
A. 大家さんへの責任(=借家人賠償)
賃貸は「借りた部屋を、元の状態に戻して返す」のがルール。
もし、あなたの不注意(タバコの不始末、お風呂の水を溢れさせた等)で部屋を壊してしまったら、全額、弁償(原状回復)する義務があります。
「でも、大家さんも火災保険入ってるでしょ?」
…ここが最大の落とし穴です。
もしあなたが火事を起こしたら、
- 大家さんの保険会社が、大家さんに修理費(例えば1,000万円)を払います。
- 話はここで終わりません。
- 保険会社は、支払った1,000万円全額を、火事を起こした「あなた」に請求してきます。(これを「代位求償」といいます)
「大家さんは優しいから許してくれても、保険会社は許してくれない」のです。
この「保険会社からの高額請求」から身を守るのが、「借家人賠償責任保険」です。
B. 他人(隣人)への責任(=個人賠償)
大家さん以外(階下の人、通行人)に損害を与えた場合です。
- 最頻出:「階下への水漏れ」
「洗濯機のホースが外れてた…」たったそれだけで、階下の住人の高価なPC、オーディオ、ブランド品のバッグを水浸しにしたら…その損害額(時価額)を全額賠償です。 - 盲点にして最大のリスク:「自転車事故」
「え、部屋と関係ないじゃん!」と思いますよね。でも、この保険は「日常生活の事故」もカバーしていることが多いんです。
最近、自治体で「自転車保険」の加入が義務化されていますが、この保険がその代わりになります。
万が一、自転車で歩行者にぶつかり、相手に重い障害を負わせてしまったら…
- (事例)賠償額 9,266万円 の判決
- (事例)賠償額 9,521万円 の判決
こんな判決が現実に出ています。
たった一つの「水漏れ」事故が、「自分の家財が壊れる(リスク①)」+「大家さんへ弁償(リスク②-A)」+「階下の人へ弁償(リスク②-B)」という損害のトリプルパンチになることも…。
人生が詰んでしまうレベルの高額賠償。これに備えないのは、あまりに無防備すぎます。
【暮らしっく不動産のホンネ ③】
水漏れの一例として、洗濯機からの水漏れを紹介します。(うちの管理物件で実際にあったことです)
洗濯機の給水ホースの取付が悪く、引越しからずっと水が少しづつ漏れていた。
大きな水漏れではないので、気づかずに放置、少量でも水が少しづつ漏れていたので、たまりに溜まって、下の階へ水漏れ。
下の階の天井の張替え、壁のクロス張替えなどで修理費用20万円ほど。
保険入っていたので保険でカバー。
こういうとき助かります。
リスク③:「あっ、やっちゃった!」を助ける【修理費用補償】
賠償責任(重い過失)とは別に、日常生活の「うっかり」による破損をカバーしてくれる、実用的なお守りです。
例えば、
- 「化粧品のビンを落として、洗面台にヒビが…」
- 「模様替えで家具をぶつけて、ドアを破損させた…」
- 「空き巣に入られて、窓ガラスを割られた!」
こういう「人生破綻するほどじゃないけど、数万円〜十数万円の痛い出費」、ありますよね。
これ、普通なら退去時に敷金から引かれたり、実費で請求されたりします。
この「修理費用補償」は、そんな「うっかり」をカバーして、あなたの敷金を守ってくれる役割があるんです。
【暮らしっく不動産のホンネ ④】
「退去立会いの時、『あ、これ保険で直せたんですよ…』って後悔する人、意外といらっしゃいます。
自分の不注意で破損していまった、ガラスや壁など、加入している火災保険で対応できるケースもあります。
「あ、やっちゃった」というときはまず相談しましょう。
結論:月額たった数百円。それでも保険、入らない?
ここまで見てきた3つのリスク。
「①家財全損(230万円の損失)」「②高額賠償(1,000万円の負債)」「③うっかり修理(100万円の出費)」。
(※( )内は、ある保険プランP2の補償額例)
これだけのリスクに備えるための保険料は、いくらだと思いますか?
(例)プランP2の場合:
- 保険料: 15,000円 / 2年間
- 1年あたり: 7,500円
- 1ヶ月あたり: 約625円
そう。月額たったの625円。コーヒー1〜2杯分です。
この月額625円を節約することは、「もしも」の時に「数百万円の損失」と「数千万円の負債」をすべて自分で背負う、ということです。
賃貸の火災保険は、「万が一の火事」のためだけに入るのではありません。
「もらい火」という理不尽から自分の財産を守り、「うっかり」の出費に備え、「自転車事故」のような人生最大の賠償リスクを回避する。
これはもはや「保険」というより、「安心して日常を送る」ための、最も合理的で安価な“必要経費”だと、僕たちは思っています。
僕たちが契約時に「入ってくださいね」と伝えるのは、皆さんの新しい生活が、不運な事故で一瞬にして壊れてしまわないように、守るため。暮らしっく不動産からの、切実なお願いです!
(こちらの記事は、暮らしっく不動産の門傳義文(保有資格:宅地建物取引士、賃貸不動産管理士、少額短期保険募集人、FP2級)が執筆しました。)
