【独自調査】賃貸の「消毒代」がある物件は、選ぶな! 1.6万件分析で判明した「不要な費用」の正体と完全交渉ガイド

【独自調査】賃貸の「消毒代」がある物件は、選ぶな! 1.6万件分析で判明した「不要な費用」の正体と完全交渉ガイド

序章:あの爆発事故と「消毒代」の闇

2018年、札幌で起きたアパマンショップの爆発事故を覚えていらっしゃいますか? あの事故は、スプレー缶の不適切な処理が原因でしたが、その背景には入居者から徴収していた「消臭・消毒代」の存在がありました。

当時、私たち暮らしっく不動産も、この「消毒代」の不透明性について長年疑問を呈していた専門家として、業界紙である『全国賃貸住宅新聞』から取材を受けました。

全国賃貸住宅新聞掲載記事:
付帯商品の問題点が浮上 アパマン問題(2019年01月21日)
(※この記事で、代表の門傳がコメントしています)

あの事故は、私たちが賃貸契約時に「そういうものだから」と深く考えずに支払っている『よくわからない費用』に、大きな疑問符を突きつけました。

そして今、あなたのお部屋探しでも同じような場面に遭遇していませんか?

こんにちは、暮らしっく不動産の門傳(もんでん)です。
新しいお部屋探しはワクワクしますよね。しかし、素敵な物件を見つけて「いよいよ申し込み!」という段階で提示される「初期費用見積書」を見て、「あれ?」とその喜びが半減してしまった経験はありませんか?

敷金、礼金、仲介手数料といった見慣れた項目に混じって、「室内消毒費 16,500円」や「抗菌施工代 22,000円」といった見慣れない費用。

  • 「これって必須なの?」
  • 「前の人が汚してたってこと?」
  • 「そもそも部屋をキレイにするのは大家さんの仕事じゃないの?」

こんな疑問が浮かんだあなたは、とても鋭いです。

結論から申し上げます。
その「消毒費用」、法律で定められた必須の費用ではありません。 多くの場合、それは不動産仲介会社や管理会社が利益を上乗せするため設定した「オプションサービス」であり、知らず知らずのうちに支払わされている可能性が非常に高いのです。

私たち「暮らしっく不動産」は、この賃貸業界の長年の慣行にメスを入れ、皆さまが賢く契約できるよう、独自の調査を実施しました。
実際の募集物件15,932件のデータを分析し、この「消毒費用」の正体と、それを法的な根拠に基づいて「断る」ための実践的な方法を徹底的に解説します。
この記事を読ばば、あなたは自信を持って「その費用は不要です」と交渉できるようになるでしょう。

📊 Part 1. 【独自調査】「消毒代」は"当たり前"ではなかった

この「消毒費用」が本当に業界の「当たり前」なのか? 私たちは、2025年11月時点で実際に募集されている物件を分析しました。

※物件は、新宿区(3,529件)、渋谷区(2,268件)、中野区(3,579件)、世田谷区(6,556件)で実際に募集している合計 15,932件(2025.11.17現在)から暮らしっく不動産で分析したものです。

調査概要

  • 調査対象の物件数:15,932件
  • 調査内容:「消毒」「除菌」「抗菌」「消臭」および類似の費用記載があるかを全件調査

発見1: 消毒費用の請求は「少数派」(約5.0%)である

調査の結果、驚くべき事実が判明しました。

  • 分析対象物件数: 15,932件
  • 消毒費用等の記載があった物件数: 792件
  • 全体に占める割合: 約5.0%(792÷15,932≈4.97%)

このデータが示す事実は、極めて重要です。
実に95%以上(15,140件)の物件では、消毒費用など一切請求されていません。
この「約5.0%」という数字は、「消毒代」が当たり前でなく、「例外的な費用」であることを明確に証明しています。

発見2: 費用は「物件」ではなく「募集元の不動産会社」に紐付いている

さらに分析を深め、費用が記載されていた物件の「募集元不動産業者」に着目しました。 例えば、私たちがサンプル抽出したデータだけでも、特定の不動産会社が複数回登場していることがわかります(A社が2件、B社が2件など)。

これは、その費用が「物件そのもの」や「大家さん(貸主)」の意向ではなく、「募集元の不動産会社」が自社の収益を上げるための「独自商品(オプション)」として、取り扱う物件に一律で上乗せしている可能性が極めて高いことを示唆しています。

発見3: 混沌とした名称と「サービス価値」に応じた価格設定

調査では、この費用の名称がまったく統一されていないことも明らかになりました。

  • 「室内消毒費」
  • 「除菌消臭代」
  • 「銀イオン消臭」
  • 「除菌抗菌施工」
  • 「入居時抗菌費用」

これらが混在しているだけでなく、費用額も8,800円から33,000円まで、実に3倍以上の幅がありました。

この価格差はランダムではありません。そこには、「サービス内容の価値」に基づいた意図的な価格設定のロジックが隠されています。

  • 安価な例(8,800円): 「銀イオン消臭」
    銀イオンスプレー(Ag+)を散布する比較的単純なサービスを想起させます。
  • 高額な例(33,000円): 「除菌抗菌施工」
    「消臭」ではなく「施工(しこう)」という言葉を使うことで、光触媒コーティングなど、より高度で持続性のある専門的な作業であるという印象を与え、高額な請求を正当化しようとする意図が読み取れます。

発見4: 決定的証拠:「任意」と明記された物件の存在

今回の調査で最も重要な発見は、このサンプル調査のうちの1件、特定の不動産会社が募集する「とある物件」の資料でした。

室内消毒代: 15,000円(税抜) 任意

この「任意」という二文字。 これは、不動産業界の内部資料において、このサービスが「必須」ではなく「オプション」であると募集元自らが認めている、動かぬ証拠です。 もし他の不動産会社が「これは必須です」と説明してきた場合、この「任意」というたった一つの事例が、その主張を根本から覆す強力な反証となります。

🕵️ Part 2. 「消毒代」の正体: 一体何にお金を払っているのか?

では、約5.0%の物件で請求される「消毒代」の正体とは何でしょうか。 この曖昧な費用の裏には、大きく分けて2つの異なるサービスが隠されています。

誤解:「ハウスクリーニング」とは全くの別物

まず、この費用を「専門業者によるハウスクリーニング代」と混同してはいけません。

エアコン清掃、水回り清掃、床のワックスがけといった「ハウスクリーニング」は、国土交通省の「原状回復ガイドライン」において、原則として「貸主(大家さん)」が負担すべきものと定められています。次の入居者のために部屋を清潔な状態(=商品)に整えるのは、家賃をもらう大家さんの当然の義務だからです。

「消毒代」は、この「大家さんが負担すべきハウスクリーニング」とはまったく別の名目です。

実態1: 簡易的な「害虫駆除(ペストコントロール)」

多くの不動産会社にとって、「消毒」とは「害虫駆除(予防)」の婉曲的な表現です。

  • サービス内容: 業者が訪問し、ゴキブリやダニなどが出やすい箇所に殺虫剤や予防薬をスプレーで散布します。作業時間は10分~15分程度がほとんどです。
  • 問題点: そもそも、害虫がいない清潔な住環境を提供することは、貸主の義務の範囲内です。入居者が追加費用を払って「害虫駆除」をしなければならない状態自体が、物件として問題があると言えます。

実態2: 「高機能コーティング」という名の"アップセル"

もう一つの実態は、より高額な費用(2~3万円台)の背景にあるものです。これは害虫駆除のような「マイナスをゼロにする」作業ではなく、「ゼロをプラスにする」ための"アップセル"(上位商品の販売)です。

  • レベル1: 「銀イオン(Ag+)スプレー」
    調査でも確認された「銀イオン消臭」(8,800円)など。室内に噴霧し、消臭・抗菌効果を謳うものです。
  • レベル2: 「抗菌施工」または「光触媒コーティング」
    調査で最も高額だった「除菌抗菌施工」(33,000円)など。酸化チタン(TiO2)などを主成分とする「光触媒」塗料を壁などにコーティングするサービスです。光が当たることでウイルスや細菌を分解するとされています。

「消毒代」の巧妙なビジネスモデル

ここで見えてくるのは、この「消毒代」という一つの曖昧な言葉に、性質の異なる2つのサービスが意図的にまとめられているという事実です。

  1. 実態A(害虫駆除): 入居者が「断ったら虫が出るかも」と不安に思う「修復」サービス。
  2. 実態B(光触媒): 入居者が「新しくて高機能だ」と価値を感じる「アップグレード」サービス。

仲介会社は、この2つを「消毒代」という言葉で意図的に混同させます。 入居者は、自分が「害虫駆除」という基本的な安心を拒否しようとしているのか、それとも「光触媒」という高級オプションを拒否しようとしているのか、判断がつかない状態に置かれます。

この「計算された曖昧さ」こそが、入居者が「よくわからないから、念のため払っておこう」と判断停止に陥ることを狙った、非常に巧妙なビジネスモデルの核心なのです。

暮らしっく不動産のホンネ

わたしたちの管理物件やこれまで仲介した物件に、消毒代や害虫駆除などを特におこなったことはありませんが、虫が出たとか大きなトラブルになったことはありません。

ハウスクリーニングをしっかり入れていれば、それで十分です。

🛡️ Part 3. 法的根拠はあるの? 国交省ガイドライン vs. 仲介会社の利益

では、この「消毒代」の請求を法的に拒否することはできないのでしょうか。 結論から言えば、断固として拒否できる可能性が極めて高いです。

大原則: 借主に「消毒代」の支払い法的義務はない

まず、日本の法律(借地借家法など)において、入居者(借主)に「消毒代」の支払いを義務付ける条文は一切存在しません。

入居時費用の不当性を訴える「論拠」としてのガイドライン

あなたの最も強力な論拠は、国土交通省が定める「原状回復ガイドライン」が示す**『貸主(大家さん)責任の原則』**です。

このガイドラインは、賃貸借契約の解釈において、経年劣化や通常損耗(普通に暮らしていて生じる汚れや傷)の修繕、そして「通常のハウスクリーニング」の費用は、貸主が負担すべきという原則を示しています。これらの費用は、毎月支払う「家賃」に当然含まれているべきもの、とされています。 この原則は、入居者に対して、部屋を次に貸し出すための準備費用(一般的な清掃や消毒)を一方的に負担させる**「特約」が、消費者にとって不合理である**ことを示す強力な根拠となります。

つまり、ガイドラインに照らし合わせれば、入居者が追加で消毒費用を負担する合理的な理由は見当たらないのです。

結局のところ、「消毒代」の正体は、「24時間安心サポート」といった他のオプションサービスとまったく同じ、仲介会社や管理会社が高利益率を上げるために開発した「オプション商品」なのです。
私たちの調査で発見した「任意」の文字こそが、すべてを物語っています。

💡 Part 4. 【実践ガイド】「消毒代」を断るための完全アクションプラン

理論武装は万全ですね。ここからは、その知識を「コスト削減」という実益に変えるための、具体的な行動計画(アクションプラン)です。

【最重要】一番の対策は「消毒代ありの物件を選ばない」こと!

まず大前提として、暮らしっく不動産が最も強くお勧めする対策は、 「そもそも消毒代を請求してくるような物件(または不動産会社)は、選ばないこと」です。

私たちの調査(Part 1)が示す通り、消毒代を請求する物件は全体のわずか約5.0%にすぎません。つまり、95%の物件は消毒代など不要なのです。

あえてその5%の物件を選び、これから紹介するような交渉に時間と労力を使う必要はありません。 見積書の段階で「消毒代」が記載されていたら、それはPart 3で解説したような「不誠実な会社」である可能性を示す「レッドフラッグ(警告サイン)」だと私たちは考えます。

暮らしっく不動産が「選ぶな」と強く言う理由

なぜなら、賃貸契約では、入口(契約前)から出口(退去)するまでをトータルで考える必要があるからです。

「入口」である契約前に、法的にグレーな「消毒代」を請求してくるような物件(会社)は、「出口」である退去時に、敷金精算などでトラブルになる可能性がじゅうぶん考えられます。

だからこそ、私たちはそのような物件を(たとえ交渉して消毒代を外せたとしても)おすすめできないのです。

一番賢い選択は、きっぱりと「この物件はやめます」と伝え、残り95%の誠実な物件(や不動産会社)を探すことです。


とはいえ、「どうしてもこの物件がいい!」「申し込みをしてしまった後で気づいた」という方のために、ここからは具体的な交渉術(次善の策)を解説します。

ステップ1: 最初の確認(申込・見積書の段階)

戦いは、最初の「初期費用見積書」を受け取った瞬間に始まります。 隅々まで目を通し、「消毒」「除菌」「抗菌」「消臭」といったキーワードがないか確認してください。この段階で発見することが最も重要です。

ステップ2: 行動の最適タイミング(契約前・重要事項説明前)

交渉のタイミングは、「契約書に署名・捺印する前」であり、かつ「重要事項説明を受ける前」が絶対条件です。一度サインしてしまえば、「その内容に合意した」とみなされ、交渉が非常に難しくなります。

最も効果的なのは、入居審査が通過した直後。仲介会社から「では、契約日を決めましょう」と連絡が来たタイミングです。 電話ではなく「メール」で交渉の意思を伝え、証拠(エビデンス)を残すことを強く推奨します。

ステップ3: 交渉術としての「拒否スクリプト」

相手もプロです。感情的にならず、しかし毅然とした態度で「不要」と伝えましょう。

スクリプト1: シンプル拒否(最も簡単)

「お見積書を拝見しました。項目にあります『室内消毒費 16,500円』ですが、こちらは不要ですので、初期費用から外していただけますでしょうか?」

(解説:単刀直入に「不要」と伝えます。これであっさり応じてくれる会社も多いです。)

スクリプト2: 知識ベース拒否(玄人向け)

「国土交通省の原状回復ガイドラインを確認しましたが、専門業者によるクリーニングや消毒は、原則として貸主様の負担であると理解しております。暮らしっく不動産の調査データでも約5.0%の物件しか請求していない少数派の費用ですので、こちらは任意のサービスとして、私は希望しません。」

(解説:「国交省ガイドライン」「約5.0%」といった具体的なキーワードを出し、あなたが「知識を持って交渉している消費者」であることをアピールします。)

スクリプト3: 健康理由拒否(最も効果的)

「恐れ入りますが、私はアレルギー体質(または化学物質過敏症)でして、どのような薬剤が散布されるかわからないため、体調への影響を考慮し、室内消毒の実施は辞退させてください。」

(解説:これが最も強力な交渉術の一つです。「お金」ではなく「健康上」の理由に持ち込むことで、相手は反論しづらくなります。入居者の健康を害してまでサービスを強制することは、企業コンプライアンス上、非常にリスクが高いため、ほぼ100%承諾されるでしょう。)

スクリプト4: 他社比較拒否(データに基づく交渉)

「(暮らしっく不動産の調査を念頭に)知人が最近契約した別の会社の物件では、このような費用は一切かかりませんでした。データでも約95%の物件は請求していないようですが、これは契約に必須の費用なのでしょうか?」

(解説:私たちの「約5.0%」というデータ(=95%は不要)が、この交渉を強力に後押しします。)

ステップ4: 最大の難関:「必須です」と言われた場合の対処法

仲介会社から、「これは必須です」「大家さん(管理会社)の意向で、これに合意しないと契約できません」と返答されるケースがあります。

ここで冷静に考えてください。 私たちの調査が示す通り、この費用は「任意」であり「少数派」です。それを「必須」だと言い張り、わずか1~2万円の追加収益のために、あなたの正当な要求を突っねる会社は、果たして信用に足るでしょうか?

それは、非常に危険な「レッドフラッグ(警告サイン)」です。

契約前にそのような不誠実な対応をする会社は、あなたが退去する際、敷金の返還(原状回復費用の精算)で、さらに高額な(そして不当な)請求をしてくる可能性が極めて高いと予測できます。

私たちの専門家としてのアドバイスは、「戦うな、逃げろ」です。

その費用を無理に値切るのではなく、その「不誠実な会社」との契約そのものを見送るのです。「承知いたしました。では、今回はご縁がなかったということで、お申し込みをキャンセルさせていただきます」と、きっぱりと伝えましょう。 その「消毒代 16,500円」は、その会社の倫理観を測るための「リトマス試験紙」だったのです。

ステップ5: 万が一、すでに支払ってしまったら

もし、この記事を読む前に契約し、消毒代を支払ってしまったとしても、諦めるのは早いです。 契約書に「任意」と記載されていた、あるいは「必須」という説明が不十分だったと感じる場合、消費者契約法に基づき、費用の返還を求められる可能性があります。

トラブルになった場合は、一人で抱え込まず、お近くの「消費生活センター(局番なしの188)」や、専門家に相談してください。