宅建試験にまさかの「中古車」が登場?そこから学ぶ、不動産取引だけの「守られたルール」
こんにちは、暮らしっく不動産の門伝です。
先日、宅建試験(宅地建物取引士資格試験)が行われましたね。受験された皆様、本当にお疲れ様でした。
私が合格したのはずいぶん前になりますが、試験当日のあの独特な緊張感は、今でも昨日のことのように思い出します。
さて、過去の試験問題(平成29年度)で、業界でも少し話題になった「珍問」があったのをご存じでしょうか?
不動産の試験なのに、なんと「中古車」の売買に関する問題が出たんです。
【問題の概要】
Aさんが中古車を売るために、業者Bに仲介を依頼して、Cさんに100万円で売りました。この時のルールとして正しいのはどれ?
(平成29年度 宅地建物取引士試験 問5より要約)
「え、車の知識なんてないよ!」と焦った受験生も多かったようですが、実はこれ、「民法(世の中の基本ルール)」と「宅建業法(不動産の特別ルール)」の違いを理解しているか試す、非常に深い良問なんです。
今日はこの問題をネタに、「なぜ不動産の契約はあんなに細かいのか?」について、少し裏話をしようと思います。
1. 車(民法)と家(宅建業法)は、ここが違う!
この問題の選択肢を見ると、不動産取引との決定的な違いが見えてきます。
① お金の支払いはいつ?
- 中古車(民法):
特約がなければ、車と引き換えでも、後でも先でもOK(当事者の自由)。 - 不動産:
実務上は、トラブル防止のために「引き渡しと同時(決済)」が鉄則です。
② 壊れていたらどうする?(ここが一番重要!)
以前は「瑕疵(かし)担保責任」と呼ばれていましたが、現在は「契約不適合責任」という名前に変わっています。
- 中古車(民法):
契約内容によります。「現状渡し(ノークレーム・ノーリターン)」という特約も、個人間売買なら有効になることが多いです。 - 不動産(宅建業法):
ここが厳しい!
不動産業者が売主の場合、「最低2年間は責任を負う」というルールが義務付けられています。「責任負いません」という特約は無効。消費者が不利にならないよう、法律でガチガチに守られているのです。
※契約不適合責任については、以前こちらの記事でも詳しく解説しました。
瑕疵担保責任(契約不適合責任)のわかりやすい説明書(暮らしっく不動産)
2. 「他人の物」を売っていいの?
実は、試験問題の正解(正しい記述)はこれでした。
選択肢4:
売買契約の時、その車がAさんの所有物ではなく、Aさんの父親の所有物だったとしても、契約は有効に成立する。
「えっ、人のものを勝手に売る契約をしていいの?」と思いますよね。
実は民法上は「有効」なんです(後でちゃんとお父さんから権利をもらって、買主に渡せばOK)。これが「他人物売買(たにんぶつばいばい)」です。
しかし、不動産屋はこれが禁止されています。
私たち宅建業者は、原則として「自分のものじゃない不動産」を売る契約を結んではいけません(※一部例外あり)。
なぜなら、もしお父さんが「売らないよ!」と言い出したら、買主さんが路頭に迷ってしまうから。金額が大きい不動産だからこそ、民法よりも厳しい「宅建業法」でブレーキをかけているのです。
3. 「安さ」や「簡単さ」の裏にあるリスク
中古車の個人売買アプリなどが流行っていますが、あれは基本的に「民法」の世界。何かあっても「当事者同士で解決してね」となりがちです。
一方で不動産取引は、重要事項説明書を作ったり、供託金を預けたりと、手続きが面倒に見えるかもしれません。
しかしそれは、「何かあった時に、確実に消費者を守るため」に、先人たちの失敗と教訓から作られた安全装置なのです。
「仲介手数料無料」や「格安」を謳う業者が、この安全装置をどこまで丁寧に扱っているか。
そこはやはり、注意深く見る必要があります。
さいごに
「中古車の問題」を通して見えてくるのは、「不動産取引はいかに消費者を守るように作られているか」という点でした。
私たち暮らしっく不動産が、契約書や重要事項説明の読み合わせに時間をかけるのも、すべてはお客様の「安心」という土台を作るため。
法律の知識をしっかりアップデートしながら、今日も真面目に実務に励みます。
それではまた。
