【専門家が解説】賃貸の「仲介手数料無料」のカラクリと賢い物件選び (監修: 門傳義文)

仲介手数料無料の不動産広告のイメージ
(「仲介手数料無料」をうたう不動産広告のイメージ)

街中で「仲介手数料無料」や「半額」といった看板を掲げる不動産屋を見かけたことはありませんか? 「なぜ無料にできるのか?」「利益はどうなっているのか?」と不思議に思う方も多いでしょう。もちろん、ボランティアで運営しているわけではなく、そこには明確なビジネスモデル(カラクリ)が存在します。

今回は、不動産の専門家として、この「仲介手数料無料」の仕組みと、お客様が知っておくべき注意点について詳しく解説します。

監修:門傳 義文(暮らしっく不動産 代表)

そもそも「初期費用」とは?

まず、一般的な賃貸契約でどれくらいの費用がかかるのか、具体的な例で見てみましょう。

【例】家賃8万円、共益費3,000円の部屋を3月20日に入居で契約した場合

項目 金額(円) 備考
3月分日割り家賃 30,968 (80,000円 ÷ 31日)× 12日分
4月分家賃 80,000
3月分日割り共益費 1,161 (3,000円 ÷ 31日)× 12日分
4月分共益費 3,000
敷金(1ヶ月) 80,000
礼金(1ヶ月) 80,000
家財保険 15,000 (目安)
保証会社(30%) 18,000 (家賃+共益費)の30%で計算
鍵交換費・24hサポートなど 21,000 (目安)
仲介手数料 86,400 (家賃1ヶ月分+消費税10%)
合計 415,529円

※保証会社の料率や付帯サービスは物件・管理会社により異なります。

よく「初期費用は家賃の4.5ヶ月~6ヶ月分」と言われますが、この例でも約5ヶ月分(家賃・共益費合計の5倍)となり、目安通りです。
この中で、仲介手数料(86,400円)は全体の約21%を占める大きな項目です。

仲介手数料が無料になると?

もし、上記の例で仲介手数料が「無料」になった場合、総額は 329,129円 となり、約8.6万円も安くなります。 お客様にとっては非常に大きなメリットに感じられるでしょう。

しかし、不動産会社にとって仲介手数料は主要な利益源です。これをゼロにして、どうやって経営を成り立たせているのでしょうか。

専門家のコメント

仲介手数料が無料になることで、お客様の初期費用負担が軽減されること自体は喜ばしいことです。
ただし、注意したいのは「仲介手数料は無料でも、他の名目で費用が上乗せされていないか?」という点です。「消毒代」「24時間サポート」「室内清掃費」といったオプションサービスが必須契約になっており、結果的に他社で仲介手数料を払う場合と総額が変わらない、あるいは高くなるケースも散見されます。

暮らしっく不動産のホンネ(体験談)

仲介手数料無料の不動産会社さんは、契約手続きが煩雑な傾向があるとみています。
今年、売買の契約があったお客様の登記で、賃貸の契約書が必要になりコピーを取り寄せた所、手続きがされていないような契約書類が届きました。
新築の登記だったので、その後の税金にも関わる大事な書類。なんとか事なきを得ましたが、やっぱり手数料無料の業者は怖いなとおもいました。


カラクリ①:収益源は「広告料(AD)」

仲介手数料無料の不動産会社が主な収益源としているのが「広告料(AD)」です。

これは、入居者(お客様)からではなく、大家さん(貸主)や物件の管理会社(募集元)から不動産会社に対して支払われる成功報酬です。「客付けしてくれてありがとう」という意味合いで支払われる、いわば販売促進費です。

不動産業者間でのみ閲覧できる物件情報(図面)には、以下のような記載がある場合があります。

  • 「AD 100%」
  • 「広告料 50%」
  • 「業務委託料 1ヶ月分」

これは「家賃の〇%(または〇ヶ月分)を広告料として支払います」という意味です。
仲介手数料無料の業者は、この仕組みを以下のように活用しています。

  • 仲介手数料無料 → ADが100%(家賃1ヶ月分)以上出る物件をメインに取り扱う
  • 仲介手数料半額 → ADが50%(家賃0.5ヶ月分)以上出る物件をメインに取り扱う

お客様から仲介手数料をいただかなくても、大家さん側からADをもらうことで収益を確保しているのです。

専門家のコメント

広告料(AD)自体は、空室を早く埋めたい大家さん側の正当なマーケティング手法であり、違法ではありません。
問題となるのは、不動産会社の収益(ADの有無)が、お客様への物件提案に影響してしまうことです。お客様の希望よりも「ADが出る物件」が優先されてしまう構図が、大きな問題点です。


「仲介手数料無料」の最大のデメリット

「初期費用が安くなるなら、誰がどうお金をもらっていても構わない」と思うかもしれません。 しかし、ここにお客様にとっての最大のデメリットが潜んでいます。

それは、「紹介される物件の選択肢が極端に狭まる」ことです。

仲介手数料無料をうたう業者は、利益を出すために「ADが出る物件」しか紹介してくれない(あるいは、紹介しにくい)可能性があります。

では、ADが付いている物件は、市場全体でどのくらいあるのでしょうか?

元記事の執筆当時(2015年頃)の調査では、ADが付く物件は全体の約3割程度でした。ADが出ない物件は、最初から紹介の土俵にすら上がっていなかった可能性を示唆しています。

初期費用が安くなるメリットと引き換えに、より良い条件の物件や、本当に希望に合う物件に出会うチャンスを失っているかもしれないのです。

専門家のコメント

元記事にある「32%」という数字は、記事執筆当時(2015年頃)の調査結果です。時代は大きく変わり、我々が2025年11月に行った最新の調査(暮らしっく不動産調べ)では、AD(広告料)が出る物件の割合は劇的に増加しています。

調査結果(新宿区の募集物件)では、全3,158件中、AD(広告料)が付く物件は2,267件。実に全体の約71.8%にものぼります。

これは、大家さん側の空室対策がより積極的になり、ADを活用することが一般的になった結果と言えます。

しかし、注目すべきは、割合が増えたとはいえ、ADが出ない物件も依然として約3割(28.2%)は存在するという事実です。もし「ADが出る物件」という狭い枠の中だけでお部屋探しをすることになれば、お客様にとっての選択肢が3割近くも制限され、最大の不利益となってしまう構図は今も昔も変わりありません。


カラクリ②:さらに悪質な「のっけ」とは?

広告料の派生系として、さらに注意すべき「ダーク」な手法が存在します。 それが「礼金のっけ(上乗せ)」です。

これは、業者間のやり取りで「のっけOK」「礼のっけ可」などと使われる隠語です。 意味は、「(仲介会社が)大家さん側の設定した礼金に、自由に金額を上乗せしてお客様に請求して良い。上乗せした分は仲介会社の収益(ボーナス)にして良い」というものです。

【例】

  • 本当の条件: 礼金0ヶ月 / AD 100%
  • お客様への提示: 礼金1ヶ月 / 仲介手数料無料

この場合、お客様は「仲介手数料が無料でラッキー」と思っているかもしれませんが、実際には本来払う必要のない礼金1ヶ月分を支払っています。 仲介会社は、大家さんからのAD(1ヶ月分)に加え、お客様から取った上乗せ分の礼金(1ヶ月分)で、合計2ヶ月分の利益を得ているのです。

専門家のコメント

「のっけ」は、お客様を意図的に欺き、不当な利益を得る行為であり、宅地建物取引業法(誇大広告の禁止、信義誠実の義務)に抵触する可能性が極めて高い悪質な手口です。
弊社にも「のっけできますか?」と他の業者から問い合わせが来ることがありますが、当然ながら全てお断りしています。

暮らしっく不動産のホンネ(体験談)

以前、大手法人契約の際に、社宅代行している会社さんから「のっけ」の話が出てびっくりしたことがありました。もちろんお断りしましたが。。。


まとめ:賢い不動産屋選びのために

「仲介手数料無料」の不動産会社が、すべて悪質だというわけではありません。ADを原資にお客様に還元するビジネスモデルです。

ただし、消費者としては、その「安さ」の裏には、

  1. 紹介される物件の選択肢が制限されている(AD物件のみ)可能性があること
  2. 仲介手数料以外(礼金やオプション)で利益を確保している可能性があること

というカラクリがあることを知っておく必要があります。

初期費用の安さだけに飛びつくのではなく、「なぜ安いのか?」を理解し、ADの有無に関わらず、お客様の立場で全ての物件を公平に提案してくれる不動産会社を選ぶことが、最終的に「良い部屋探し」につながります。

専門家のコメント (暮らしっく不動産の方針)

暮らしっく不動産では、仲介手数料を頂戴する代わりに、AD(広告料)の有無に関わらず、市場にある全ての物件をお客様にご提案することをポリシーとしています。
もちろん、ADが出る物件をご契約いただいた場合は、そのADを原資として仲介手数料を(法律の範囲内で)お値引きするなど、お客様に還元する形を取っています。
「のっけ」のような不誠実な行為は一切行いません。お客様にとって最良の選択ができるよう、透明性の高い情報提供を心がけています。


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