【日管協委員が完全解説】賃貸住宅トラブル相談Q&A 2025年最新版(退去費用・家賃滞納・契約金)
「初期費用の見積もりが高すぎる。これって、ぼったくり?」
「申込金、キャンセルしたら本当に返ってこないの?」
「退去費用で敷金が全部持っていかれた…」
賃貸住宅にまつわるトラブルは、不安でいっぱいですよね。 はじめまして。「暮らしっく不動産」の門傳(もんでん)です。
実は私、不動産屋の傍ら、「公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会(日管協)総合研究所」の委員として、まさに皆様が悩んでいるような賃貸トラブルの最新事例やデータを研究・分析に携わっています。
先日も『賃貸住宅トラブル相談Q&A 2025年版』のセミナー運営に携わってきました。そこには業界のプロが集めた、ネットには出にくい「生々しい」相談事例が山積みです。
ちょっとだけ裏話をすると…
日管協には、令和6年度だけで4,345件もの相談が寄せられています。 その相談相手は、管理会社さんが70%ですが、 借主さん本人からも23%、 つまり1,000件以上の悲痛な声が届いているんです。 相談内容で多いのは「賃料(増減や滞納)」、「原状回復(退去費用)」、「管理業法」 など、まさにお金とルールに関するトラブルです。
この記事は、そうした業界の最新データとQ&Aの知見を元に、一般の方には分かりにくい「業界の常識」と「法律上のルール」を、皆様の目線で徹底的に解説する「まとめページ」です。
暮らしく不動産らしく、分かりやすく説明したいと思います。
この記事だけで、あなたの悩みの「答え」と「次に何をすべきか」が分かるはずです。
この記事でわかること(目次)
賃貸のトラブルは、大きく分けて3つのタイミングで発生します。
- 【入口】契約時のトラブル(申込金、おとり物件、重要事項説明など)
- 【入居中】のトラブル(設備修繕、騒音・悪臭、家賃滞納など)
- 【出口】退去時のトラブル(原状回復ガイドライン、敷金返還、違約金など)
あなたの悩みがどこにあるか、目次から飛んでみてください。
🏠 第1章:【入口】契約時のトラブルQ&A
契約前は、不動産屋の「普通は〜」という営業トークに流されがち。でも、ここで「知っているか」が、後々の金銭トラブルを防ぐ最大のカギです。
Q. 申込金(手付金)を払ったけどキャンセルしたい。返金されますか?
A. 原則、「申込金(預り金)」なら返金されます。「手付金」と言われたら要注意です。
これは、当サイトのアクセス解析でも「申込金 返してくれない」という悲痛な検索が非常に多い、最重要トラブルです。
- 申込金(預り金):あくまで「入居の意思」を示すために一時的に預けるお金。契約成立前なら、キャンセルすれば全額返金されるべきお金です。
- 手付金(契約金の一部):売買契約では一般的ですが、賃貸では「手付金」名目で契約のキャンセル料(違約金)のように扱うのは原則禁止です。
もし不動産屋が「申込金をキャンセル料として没収します」と言ってきたら、それは宅建業法違反の可能性が非常に高いです。
暮らしっく不動産のホンネ
「申込金(手付金)を返してくれない!? 悪徳不動産に引っかかった話【実話】」の記事でも書いていますが、これは本当に根深い問題。 「預り証」の但し書きをよく見てください。「契約不成立時は返金する」と書いてあるか、そもそも「手付金」という言葉が使われていないか、が重要です。
Q. 「事故物件」や「騒音トラブル」って、説明義務はないの?
A. あります。これを「告知義務」と言います。
日管協のQ&A 2025年版でも、この「告知義務」の範囲は重要なテーマとして取り上げられています。
- 事故物件(心理的瑕疵):いわゆる「孤独死」や「自殺」などがあった物件。ガイドラインに基づき、原則として(自然死などを除き)告知義務があります。
- 騒音トラブル:判断が難しい部分です。Q&Aの事例でも「2年前にトラブルがあったが、今は収まっている」ケースなどが議論されます。現在は収まっている場合、積極的な告知義務まではない可能性が高いですが、申込者から「騒音はありますか?」と質問があれば正直に回答する必要があります。
- その他の嫌悪施設:近所に反社会的勢力の事務所や、著しい悪臭・騒音の元になる施設がある場合も、告知義務の対象となることがあります。
「契約の判断に重要な影響を与えること」は、信義誠実の原則から説明すべき、というのが基本的な考え方です。
暮らしっく不動産のホンネ
以前勤めていた会社の管理物件で、同じマンション内にいわゆる反社の方が居住している物件がありました。
このとき契約書作成を担当しましたが、もちろん重要事項説明書に明記し、説明しました。
特にトラブルにはなりませんでしたが、知らずに入居していたら…と考えると説明は必須ですよね。
🚪 第2章:【入居中】のトラブルQ&A
住み始めてからが本番。ここでは「我慢すべきか、主張すべきか」の線引きが重要です。
Q. 家賃を滞納しそう…(または滞納した)。どうなりますか?
A. まず、すぐに管理会社(または大家さん)に「自分から」連絡してください。
これは【入居中】で最も深刻なトラブルであり、日管協の相談データでも「賃料」関連はトップクラスです。
「連絡が取れない」ことが、大家さんや保証会社を一番不安にさせ、法的手続き(強制退去・明け渡し)に進ませる最大の理由です。
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STEP 1:督促(電話・普通郵便)
まずは電話や「家賃未払いのお知らせ」といった書面で連絡が来ます。この段階で「いつまでに支払えるか」を誠実に相談すれば、待ってくれるケースがほとんどです。
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STEP 2:催告書の送付(内容証明郵便)
連絡が取れない、または約束が守られない状態が続くと、法的手続きの準備として「滞納家賃等のお支払いについて (催告書)」といった書面が、証拠の残る「内容証明郵便」で届くことがあります。これは「契約解除の予告」を含む、最後通告に近いものです。
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STEP 3:契約解除・法的措置
催告書で指定した期限(相当の期間)を過ぎても支払いがない場合、「信頼関係の破壊」とみなされ、賃貸借契約の解除が成立します。その後、最終的には「建物明渡訴訟」という裁判に進みます。
暮らしっく不動産のホンネ(重要)
もし滞納してしまっても、絶対に無視しないでください。
私たち管理業者は、ただ督促するだけが仕事ではありません。滞納が続くと一括で支払うのが難しいことは分かっています。そのため、「支払計画書」を使って「分割でなら払えますか?」といった提案をするのも、私たちの重要な役目です。
誠実な相談さえあれば、一緒に解決の道筋を立てることができるのです。
Q. エアコンが壊れた! 修繕費用は誰が負担するの?
A. 賃貸人が設置した設備(もともと付いていたエアコンなど)であれば、原則として大家さん(賃貸人)の負担で修理します。
2020年の民法改正で、「賃借人の修繕権」についても明確化されました。
- 原則(大家さんの負担):
普通に使っていて壊れた(経年劣化・自然損耗)場合。すぐに大家さんか管理会社に連絡してください。 - 例外(あなたの負担):
- あなたが故意・過失で壊した場合(例:掃除中に物をぶつけて壊した)。
- あなたが勝手に持ち込んだエアコンの場合。この場合、もし設置不備で水漏れなどを起こすと、逆にあなたが修理費用を負う(損害賠償義務)ことになります。
- 「小修繕は借主負担」という特約がある場合(電球交換など)。ただし、Q&A 2025の知見でも、あまりに高額な修繕(例:給湯器交換)まで特約で押し付けるのは、消費者契約法等の観点から無効とされる可能性が高いです。
もし、大家さんに「修理して」と伝えたのに、相当の期間(例:真夏にエアコンが壊れたのに1週間も放置)対応してくれない場合は、あなたが自分で業者に修理を依頼し、その費用を大家さんに請求できる権利や、賃料の減額を請求できる可能性があります。
暮らしっく不動産のホンネ
修理費用の話ではないですが、最近夏場のエアコンの在庫が少なくなる傾向があり、職人さんがなかなか手配できないというケースが増えています。
いざという時に困らないよう、本格的な夏や冬が来る前に、必ず試運転(動作確認)をしましょう!
Q. 上の階がうるさい(または隣室のタバコが臭い)。
A. これも深刻な「居住ルール」の問題です。
- 騒音問題:
まずは管理会社に相談し、全戸配布のチラシなどで注意喚起をしてもらいましょう。裁判等の法的措置になった場合、「受忍限度(社会生活上我慢できる範囲)」を超えるかどうかが焦点になります。過去の判例では、深夜の度重なる騒音に対し損害賠償が認められたケースもあります。 - 受動喫煙(ベランダ喫煙):
ベランダは「専用使用権のある共用部分」です。喫煙により他室へ健康被害が出るレベルであれば、管理会社から注意してもらうべきです。過去にはベランダでの喫煙を「不法行為」とし、慰謝料の支払いを命じた判例もあります。
🔑 第3章:【出口】退去時のトラブルQ&A
検索流入が最も多く、日管協への相談件数もトップ3。誰もが一番不安な「退去費用(原状回復費用)」のトラブルです。
Q. 「原状回復」と「経年劣化」の線引きが分かりません!
A. ここが一番の争点です。国交省のガイドラインを理解しましょう。
- 経年劣化・通常損耗(大家さん負担):
- 入居者が普通に住んでいて古くなったり、汚れたりしたもの。
- 例:壁紙(クロス)の日焼け、冷蔵庫裏の電気ヤケ、画鋲の穴(下地ボード交換不要なレベル)。これらは家賃に含まれていると考えられます。
- 故意・過失・善管注意義務違反(あなたの負担):
- 入居者がうっかり、またはわざと付けた傷や汚れ。
- 例:タバコのヤニ汚れ、ペットが付けた柱の傷、飲み物をこぼして放置したシミ、釘やネジで開けた大きな穴。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が基準ですが、Q&A 2025の知見によれば、結局は現場での「特約(クリーニング特約など)」の有効性が争点になります。
暮らしっく不動産のホンネ
「退去費用ぼったくり!?」の記事でも詳しく解説していますが、ポイントは「退去立ち会い」に(できれば)管理会社だけでなく大家さん(または専門家)も呼ぶこと、そして納得できない内容ならその場で安易にサインしないことです。
暮らしっく不動産のホンネ(実体験)
実は、私自身も過去に事務所を退去した際、契約の特約になかったエアコン清掃費用を請求された経験があります。
「え、これってガイドラインと違うんじゃ…?」と交渉した実体験はこちらの記事にまとめています。
→ 事務所を退去しました(エアコン清掃費用を請求された話)
Q. ペットの無断飼育がバレた。退去費用はどうなる?
A. 契約違反(善管注意義務違反)として、通常より重い原状回復義務を負う可能性が極めて高いです。
Q&A 2025の事例でも議論されていますが、ペット不可物件での飼育による傷や臭いは「通常損耗」とはみなされません。 壁紙(クロス)の張り替え費用についても、特約がない限り通常は経年劣化(6年で残存価値1円)が考慮されますが、契約違反の場合はその適用外となるケースや、専門業者による高額な消臭費用(オゾン脱臭など)も請求対象となります。
Q. 短期解約違約金とクリーニング費用を二重で請求された!
A. 特約によりますが、違約金とクリーニング費用は性質が異なるため、両方とも支払う必要があるケースが一般的です。
Q&A 2025の事例では、「住める状態ではなかった」(エアコンが動かない、水漏れがある等)ため契約解除したい、という特殊なケースも取り上げられています。その場合、貸主の「契約不適合責任」を問い、違約金免除を交渉できる余地はあります。
しかし、単に「自己都合で1年未満で解約した」場合は、特約に定められた短期解約違約金(家賃の1ヶ月分など)と、原状回復としてのクリーニング費用は、別の費目として両方請求されることが正当とされます。
🧑💼 第4章:大家さん・管理会社向けの専門Q&A
(※この章は少し専門的です。主に大家さんや、不動産業界の方向けの最新トピックです。)
我々プロが直面しているのは、入居者トラブルだけではありません。日管協総合研究所の知見から、特に深刻化している3つの事例をご紹介します。
Q. 貸主(大家さん)が認知症になったら、管理業務はどうなる?
A. 資産が凍結します。ご家族であっても、修繕や新規契約などの法律行為が一切できなくなります。 対策としては、元気なうちに「家族信託」や「任意後見契約」を結んでおくしかありません。事後では「成年後見制度」の申し立てが必要になります。
Q. 入居者が孤独死したら、残置物はどう処分する?
A. 相続人が「相続放棄」をした場合、貸主(管理会社)は勝手に残置物を処分できません。 家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立てるなど、法的な手続きが必要になり、多大な費用と時間がかかります。これが、孤独死保険(家主費用・利益保険)への加入が重要視される理由です。
暮らしっく不動産のホンネ
孤独死の残置物撤去費用は、決して安くありません。
これは、単なる「片付け」ではなく、人が亡くなられた現場の「特別清掃」という専門作業になるためです。
私たちの実務経験上、ワンルームのお部屋であっても、残置物の全撤去と特殊な清掃・消臭費用で、少なくとも50万円程度は覚悟していただく必要があります。
その後リフォーム費用なども含めると100万円をゆうに超えます。
次の入居者様が安心して住める状態にするための、すべてをリセットする費用と考える必要があります。
Q. 置き配でトラブル(盗難・怪我)が起きたら、管理会社の責任?
A. 安全対策を怠っていた場合、管理会社や貸主も使用者責任(工作物責任)を問われる可能性があります。 置き配を指定した入居者や配送業者が第一義的な責任を負う可能性がありますが、共用廊下は避難経路も兼ねた管理領域です。「置き配は在宅時のみ」「共用部に物を置かない」等のルールを明確にするか、宅配ボックスを設置するなどの対策が求められます。
まとめ:最大のトラブル対策は「信頼できるプロ」を選ぶこと
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
賃貸トラブルの多くは、契約時の「知らなかった」「聞いてない」から始まります。 そして、その不安を解決できるのは、最新の法律や判例、業界データを日々研究している「本物のプロ」だけです。
私たち「暮らしっく不動産」は、日管協総合研究所の委員として得た専門的な知見を、一般の皆様に分かりやすくお伝えすることを使命としています。
この記事が、あなたの不安を解消する一助となれば幸いです。 そして、もしあなたがこれからお部屋探しをする「入口」にいるのであれば、ぜひ一度、私たちにご相談ください。トラブルを「出口」で解決するのではなく、「入口」で未然に防ぐことが、私たちの仕事です。
