2017/01/20

弁護士が考える、退去時の費用~特約の有効性について~

契約
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弁護士・不動産鑑定士の安藤です。
このたび縁あって暮らしっく不動産にて記事を掲載させていただくことになりました。
法律的な視点で不動産についてわかりやすく解説します。わかりやすさを重視するため正確性が欠けている表現もありますがご容赦ください。

初回は、引越シーズンを向かえ、何かとトラブルになることが多い、退去の費用について解説したいと思います。

退去の費用については、「退去の費用 損をしないために知っておきたい8つのこと」【 https://www.kurachic.jp/column/516/ 】に基本的なことが掲載されております。

上記コラムに掲載されているとおり、部屋を借りる際に締結する賃貸借契約書の中に、退去時の費用負担に関する特別な定め(以下「特約」といいます)がない場合には、国土交通省から発表されている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に従って、退去時の費用を算定すれば問題ありません。

ここでは、特約があった場合に、その特約によって退去時の費用を大家さんが負担するのか、入居者が負担するのかについて、お話ししたいと思います。

目次

1.特約に関する裁判所の考え方

(1)基本的な考え方

退去時の費用の特約の有効性について、平成17年(2005年)に最高裁判所が考え方を示しています(最高裁判所第二小法廷平成17年12月16日判決)。

判決文PDF http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/594/062594_hanrei.pdf (裁判所HPより引用)

  

簡単にご説明しますと、家賃の中に、

建物を普通に使って汚くなった部分をきれいにする費用(退去費用)が含まれていると考えるべきであり、すでに家賃の支払いがあった以上は、部屋を貸す大家さんが、部屋を普通に使って汚くなった箇所をきれいにする費用を負担するのが原則だとしています。

(2)特約の有効性について

この原則をもとに、大家さんは、賃貸借契約書に特約を設け、特約で、退去時の費用の負担について、入居者の負担になるような契約書を作成しています。

しかし、契約書に特約を記載すれば何でも有効なわけではありません。退去時の費用についての原則は「大家さん負担」なのです。

そこで、退去時の費用について大家さんではなく、入居者の負担とする特約を有効にするための条件として、

① 賃貸借契約書に入居者が支払う退去費用の範囲が明記されているか否か

② 大家さんや不動産会社が、退去時の費用負担について、口頭で説明し、入居者が明確にその内容を認識していると客観的に判断できるか否か

など、入居者が退去費用を負担する内容の特約についてきちんと合意されていることが必要であると裁判所は示しています。

2.クリーニング特約について

特約の中でも多く目にする「クリーニング特約」についてお話ししたいと思います。

国土交通省のガイドラインでは「クリーニングについて、入居者の負担となるのは通常の清掃(ゴミの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り掃除、換気扇やレンジ回りの油汚れ)を実施していない場合」としています。

つまり、通常の掃除を超える専門的な掃除については、大家さんが費用を負担することが原則となります。

そのため、クリーニング費用を入居者が負担する特約がない場合に、入居者が通常の清掃を行っているのであれば、クリーニング費用を負担する必要はありませんし、大家さんは入居者にクリーニング費用を請求はできないことになります。

問題となるのは、クリーニング特約がある場合でも、入居者がクリーニング特約を負担することになるのか否かということでしょう。

クリーニング特約が無効となった裁判例(東京地方裁判所平成25年5月27日判決)もあります。

従って、クリーニング特約があるからと言って、入居者がクリーニング費用を必ず負担しなければならないわけではありません。

クリーニング特約が無効になった裁判例の特徴

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クリーニング特約が無効になった裁判例の特徴としましては、

 ・専門業者に清掃を委託する必要がない場合にまで、入居者にクリーニング費用を負担させる趣旨を含んでいた

 ・実際の清掃の有無や程度にかかわらず、入居者に一定のクリーニング費用を負担させることが明らかではなかった

 ・大家さんが清掃を実施した場合にも、入居者に相当額のクリーニング費用を支払う義務があることを明らかにしていなかった

などをポイントにしているものがあります。

裁判所は、クリーニング特約が認められる場合として、

・賃貸借契約書

・重要事項説明書

・賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書

において、

・通常の部屋の使用をした場合に汚れたり壊れたりする箇所や内容を明確にする

・退去時に専用業者がクリーニングする箇所や内容を明確にする

・入居者の退去費用の負担がどの内容や範囲なのか明確にする

などの説明をする必要があるとしています。

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従って、契約書に「クリーニング費用は入居者の負担とする」という規定だけでは、入居者がクリーニング費用を全額負担する必要はないと言える可能性があります。

3.まとめ

退去の費用をめぐるトラブルは、部屋を借りる際には問題とならずに、退去する際に問題となるのが特徴的ですので、契約内容をきちんと確認していないことがあるかと思います。
退去費用の特約の有効性については、直ちに、有効無効どちらとも断言することはできません。賃貸借契約書などによる記載内容によって有効か無効かは個別の判断が必要になるからです。 引越の際に、退去の費用について気になることがある場合には、賃貸借契約書を確認した上で、大家さんや不動産屋さんに確認していただくのが良いかと思います。それでも納得できない場合は弁護士に相談した方が賢明かもしれません。


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著者
安藤晃一郎
安藤晃一郎

法律事務所リーガルアンサー代表弁護士【東京弁護士会所属】 (弁護士・不動産鑑定士) 明治大学法学部卒業・中央大学法科大学院修了。不動産鑑定士資格を有する数少ない弁護士として、不動産案件、不動産に関する遺産相続トラブルを専門とする。 著作に「賃貸トラブル 法律知識&円満解決法」(日本実業出版社)、「これならわかる〈スッキリ図解〉介護事故・トラブル」(翔泳社)など。 ご相談はこちら(法律事務所リーガルアンサー)http://www.legal-answer.jp

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