「みんなで大家さん」に学ぶ、不動産投資とそのリスク
これは「不動産投資」ではありません。
「企業への出資(金貸し)」です。
今、連日報道されている「みんなで大家さん」のトラブル問題。
2024年6月の業務停止命令に続き、出資者への返金遅延などが大きな波紋を呼んでいます。
「年利7%」「元本割れなし」という魅力的なキャッチコピーで巨額の資金を集めていましたが、我々不動産実務家から見れば、今回の事態は「運が悪かった」のではなく、「事業構造上の必然」であったと言わざるを得ません。
なぜ今回のような問題が起きたのか?
このニュースを単なる他人のトラブルで終わらせず、我々が普段扱う「一般的な不動産投資」や、安全性が高いとされる「J-REIT(不動産ファンド)」との比較を通じて、正しい投資知識とリスクの考え方を学びましょう。
1. 【比較その①】「一般的な不動産投資(現物)」との違い
まず、「大家さん」という名前がついていますが、我々が普段行っている「実物の不動産投資(アパート経営など)」とは、「権利」と「税金」において決定的な違いがあります。
| 項目 | ① みんなで大家さん | ② 一般的な不動産投資 (現物) |
|---|---|---|
| あなたの立場 | 出資者 (匿名組合員) ※単にお金を貸している状態 |
所有者 (オーナー) ※登記簿に名が載る |
| 資産の保全 (運営破綻時) |
× 保全されない 運営会社と一蓮托生。 (一般債権者の扱い) |
◎ 保全される 自分名義の不動産として残る。 (借金も残るが資産も残る) |
| 税金 (最大税率) |
雑所得 (総合課税) 給与合算。最大約55%。 ※赤字でも他と相殺不可 |
不動産所得 (総合課税) ※経費計上・青色申告が可能 ※減価償却で節税効果も |
| 銀行融資 | × 使えない (現金投資のみ) |
◎ 使える (レバレッジ効果あり) |
決定的な差:「所有権」がない
現物の不動産投資であれば、あなたの名前で法務局に登記されます。たとえ管理会社が倒産しても、土地と建物はあなたの資産として手元に残ります。
しかし、今回の商品はあくまで「事業者への出資契約」です。事業者が破綻すれば、土地がもらえるわけではなく、単なる「債権者」としてわずかな配当を待つことになります。「所有権がない=資産が保全されない」というリスクは非常に大きいです。
2. 【比較その②】「J-REIT(普通の不動産ファンド)」との違い
次に、「現物は手間がかかるから、手軽に投資したい」という方が比較対象とすべき「J-REIT(上場不動産投資信託)」との違いです。
こちらは「透明性」と「流動性(換金しやすさ)」で比較します。
| 項目 | ① みんなで大家さん | ③ 普通の不動産ファンド (J-REIT) |
|---|---|---|
| 仕組み | 不動産特定共同事業法 (非上場の企業への出資) |
投資信託 (上場しており株式と同じ) |
| 価格の決定 | 運営会社の「言い値」 (ブラックボックス) |
市場による「時価」 (常に厳しい評価に晒される) |
| 資産の管理 | 運営会社と一緒 (財布が同じ) |
信託銀行で分別管理 (財布が別=倒産隔離) |
| 換金のしやすさ | △ 極めて低い 運営会社の承諾が必要。 現在、解約停止の懸念あり |
◎ 高い 証券取引所で即売却可能。 現金化まで数日。 |
決定的な差:「市場の洗礼」を受けていない
「元本割れなし」「価格変動なし」というのは一見安心に見えますが、プロから見れば「市場原理が働いていない(=本当の価値がわからない)」という最も恐ろしい状態です。
J-REITは市場参加者が常に監視し、価格を決定します。一方、みんなで大家さんは運営会社が評価額を決めます。
「価格が変動しない」のではなく、「本当の価値変動を隠している(表面化させていない)」だけという可能性に気づく必要があります。
3. 【行政処分の事実】「開発許可のない土地」で資金調達
2024年6月17日、大阪府と東京都は運営会社に対し、不動産特定共同事業法に基づく一部業務停止命令を出しました。
この処分理由は、不動産実務家として看過できない内容です。
処分の理由:重要事項の不実表示
処分理由書には、「開発許可を受けていない対象地が含まれていたにもかかわらず、許可取得済みであるかのような記載をした」とあります。
不動産の常識として、「開発許可のない土地」は、ただの原野であり、収益を生みません。
建物が建つ見込みが立っていない更地から、どうやって年7%もの配当を生み出していたのか?
ここから、専門家の間では「新規の出資金を、既存の出資者への配当に回していた(自転車操業の疑い)」が指摘されています。
4. そもそもこれは「不動産投資」なのか?
冒頭の結論で述べた通り、「みんなで大家さん」は「不動産特定共同事業法(不特法)」に基づく商品であり、実態としては「不動産投資」とは似て非なるものです。
通常の不動産投資は「物件」を買いますが、今回のスキームは「運営会社が行う事業に対して、お金を出資(貸付)する」というものです。
不動産のプロから見れば、これは不動産投資というより、「特定のリスクある事業への出資」に近い性質を持ちます。
「不動産」という言葉の安心感に包まれていますが、「自分は大家(所有者)ではなく、単なる出資者である」という認識のズレが、最大のリスク要因と言えます。
5. 【プロの提言】素人こそ「銀行融資」を使うべき理由
以前、私が「エキサイト不動産」の取材でお話しした内容ですが、今回の問題の本質を突いているため、改めて引用します。
「失敗をしても、人生に大きな影響を及ぼさないこと」これが不動産投資で一番大切なことだと考えています。
失敗しないためにはどうすればよいか、ということをお客様に聞かれることも多いですが、簡単なアドバイスとして「銀行融資を利用する」ということをおすすめしています。
銀行融資を利用する場合は、銀行がその不動産を担保に取ります。
担保にするにはその銀行が担保評価するので、銀行がその不動産の価値を出してくれることにもなります。担保評価と不動産価格との乖離が大きい物件は避ける、担保評価の出ない物件には手を出さないなど、銀行融資で得られる「担保評価」を一つの基準としてみるとよいと思います。
不動産投資は物件の選定、不動産価格など、判断が難しい部分が多いです。
銀行融資を利用することで、一つの基準ができ、失敗のリスクを大きく減らすことができます。
(暮らしっく不動産 代表コメントより抜粋)
「融資」は最強の審査機能
そもそも、今回の「みんなで大家さん」のような小口化商品は、銀行の投資用ローンを利用できず、現金でしか投資できません。
これはつまり、「銀行という厳しい第三者の審査(チェック)を受ける機会がなかった」ことを意味します。
今回のような投資案件がなぜ危険だったのか。それは、プロの目を通さず「全て自己判断」で進めなければならなかったからです。
もし仮に、今回の成田の案件が「融資を使って購入する通常の不動産投資」だったとしたら、どうなっていたでしょうか?
間違いなく銀行審査で「開発許可のない土地に融資は出ない」「担保価値が低すぎる」と跳ね返され、投資家は入り口で被害を未然に防げたはずです。
初心者にこそ、「銀行」というパートナーの厳しい目利きが必要なのです。
まとめ:適正なリスク管理のために
今回の教訓は明確です。
- 「不特法」の商品は、不動産投資ではなく「事業への出資」に近い。
- 「価格が変動しない」のは安全なのではなく、「本当の価値が見えない」というリスクである。
- 「銀行が融資するか?」は、素人が使える最強の防衛ラインである。
成功しても、もし失敗しても、より良い人生になることが大切です。
そのためには、「人生に大きな影響を及ぼすような失敗」を避ける仕組みを持つこと。それが「銀行融資(第三者の査定)」を活用する意義です。
暮らしっく不動産では、夢のような商品は扱いません。
その代わり、「嘘のない市場価格」「透明な管理」「税制メリットを活かした堅実な資産形成」について、データに基づき論理的にアドバイスいたします。
(執筆:暮らしっく不動産 編集部)
