【2025年版】退去費用の全知識:宅建士と弁護士が教える「ぼったくられない」原状回復・相場・特約ガイド

【2025年版】退去費用の全知識:宅建士と弁護士が教える「ぼったくられない」ための原状回復・相場・特約の完全ガイド

「退去費用で20万円も請求された…これって普通?」
「敷金が1円も返ってこないのはおかしいのでは?」

引越しの荷造りで忙しい中、退去費用のトラブルまで抱えるのは本当にストレスですよね。実は、退去費用の請求書には「支払う必要のない費用」が含まれていることが多々あります。知識がないばかりに、言われるがまま支払って損をしている人が後を絶ちません。

この記事では、不動産のプロ「宅建士」と法律のプロ「弁護士」がタッグを組み、あなたが1円でも損をしないための「正しい知識」と「交渉術」を包み隠さず公開します。

この記事の監修・執筆者

著者:門傳 義文(もんでん よしのり)
株式会社ラインズマン 代表取締役 / 暮らしっく不動産 運営者
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、ファイナンシャルプランナー2級
公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会 日管協総合研究所 委員(2019年 協会活動功労賞 受賞)


共同監修(法律・特約):安藤 晃一郎(あんどう こういちろう)
弁護士・不動産鑑定士
※本記事の「特約」に関する解説は、安藤弁護士の寄稿記事および法的見解を元に構成しています。

結論:「退去費用」で損しないための最重要ポイント

時間がない方のために、結論からお伝えします。退去費用で損をしないために絶対に押さえるべきポイントは以下の4つです。

  • 絶対的な基準は「国土交通省のガイドライン」
    高額請求の多くは、このガイドラインを無視した不当なものです。交渉の最大の武器はこれです。
  • 「経年劣化」と「通常損耗」は家賃に含まれている
    普通に生活していて生じた汚れ(壁紙の日焼け、家具の設置跡など)は、原則として大家さん(貸主)の負担です。あなたが支払う義務はありません。
  • 契約書の「特約」は無効になるケースも多い
    「クリーニング代一律◯円」といった特約も、法律的な要件(消費者契約法など)を満たしていない場合、無効を主張できる可能性があります。
  • 最強の証拠は「入居時の写真」と「退去時の立ち会い」
    入居時に傷や汚れの「日付入り写真」を撮っておくこと。そして、退去時に必ず「立ち会い」に参加し、その場ですぐサインしないこと。これが高額請求を防ぐ最も有効な手段です。

そもそも「原状回復」とは? 国交省ガイドラインを徹底解説

高額請求の温床となりやすいのが「原状回復」という言葉の誤解です。

原状回復の定義:「借りた時の状態に戻す」は間違い

「原状回復」という言葉を聞くと、「入居した時と全く同じピカピカの状態に戻すこと」だと思っていませんか?

実は、それが最大の誤解です。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、原状回復とは「借主の故意・過失、その他通常の使用を超えるような使用による損耗を復旧すること」です。

つまり、普通に住んでいて自然に汚れたり古くなったりした分(通常損耗・経年劣化)は、すでに毎月の家賃に含まれているため、借主が負担する必要はないのです。

貸主負担(オーナー) vs 借主負担(あなた)の全リスト

✅ 貸主(大家)負担となるもの

(経年劣化・通常損耗 = 支払不要)

  • 壁紙(クロス)の日焼け、色あせ
  • 画鋲やピンの小さな穴(下地を傷つけない程度)
  • 冷蔵庫・テレビ裏の電気ヤケ(黒ずみ)
  • 家具の設置による床のへこみ
  • 畳の日焼け、すり減り
  • 設備の自然故障、寿命による交換
  • 次の入居者のための鍵交換費用

⚠️ 借主(あなた)負担となるもの

(故意・過失 = 支払義務あり)

  • タバコのヤニ汚れ・臭い
  • 子供の落書き
  • 釘穴、ネジ穴(下地ボードまで貫通)
  • 飲みこぼし放置によるシミ、カビ
  • ペットによる傷、臭い
  • 引越し作業でつけた深い傷
  • 掃除をサボったキッチンの油汚れ・水垢
  • 結露放置によるカビ、腐食

「経年劣化」の魔法:6年住めば壁紙は1円?

もし、あなたの過失で壁紙を汚してしまったとしても、修理費の「全額」を払う必要はありません。ここで味方になるのが「経年劣化(けいねんれっか)」という考え方です。

モノの価値は時間とともに下がります。賃貸の壁紙(クロス)の価値は、6年でほぼゼロ(1円)になると国交省ガイドラインで定められています。

【重要】負担額の計算例

例えば、壁紙の張替え費用が本来6万円かかるとします。

  • 入居してすぐ(新品)の場合:
    価値が残っているため、高額な負担になります。
  • 3年住んだ場合:
    価値は半分(50%)。あなたの負担は3万円で済みます。
  • 6年以上住んだ場合:
    価値は1円まで下がります。理論上、あなたの負担額はほぼ0円です。

【2025年最新】退去費用の相場はいくら?間取り・居住年数別データ

では、実際にはいくらぐらいかかるのでしょうか。弊社(暮らしっく不動産)の取り扱いデータや一般的な市場データを統合した相場表です。

間取り 居住年数 退去費用目安
1R・1K
(15-30㎡)
〜3年 4万円〜7万円
4年以上 0円〜5万円
1LDK・2K
(31-50㎡)
〜3年 7万円〜9万円
2LDK以上
(51㎡〜)
〜3年 10万円〜15万円

※上記の金額はクリーニング費用等を含んだ目安です。タバコやペットによる汚損がある場合は、上記に加えて10万円単位の請求が発生する可能性があります。

最も危険な落とし穴:「特約」の有効性と無効性

ガイドラインを理解しても、「契約書に特約があるから」と高額な請求をされるケースがあります。特に多いのが「ハウスクリーニング代」の特約です。

「クリーニング代」特約は有効か?

本来、ガイドライン上、借主が通常の清掃を行っていれば、専門業者によるハウスクリーニング代は貸主負担が原則です。

しかし、契約書に「退去時、クリーニング代として一律◯円を借主は負担する」と記載されている場合、判例では一定の条件を満たせば有効とされています。

ただし、契約書に書いてあれば何でも有効になるわけではありません。

弁護士が解説:その特約が「無効」になる3つの条件

消費者契約法や過去の判例(東京地裁平成25年判決など)に基づき、以下の条件を満たしていなければ、その特約は無効と判断される可能性があります。

  1. 特約の金額が相場に比べて著しく高額(暴利的)である
  2. 借主がその特約の内容を「明確に」認識していなかった
    (契約時に不動産会社からの説明不足、重要事項説明書への記載漏れなど)
  3. 通常損耗の補修まで借主に負担させることについて、明確な合意がない

【要注意】無効を主張できる可能性が高い特約

  • 「鍵交換代」(紛失していないのに、一律で借主負担とする場合)
  • 「畳の表替え、襖の張替え」(汚していないのに、退去時に新品にする費用を全額負担させる特約)
  • 「クロス全面張替え」(一部の傷で、部屋全体の張替えを要求する特約)

実践編:退去費用で「損しない」ための8つの行動リスト

  1. 【契約時】「特約」の内容を徹底的に確認・質問する
  2. 【入居時】部屋の傷や汚れを「日付入り写真」で100枚撮る(最強の証拠です)
  3. 【居住中】日常の清掃を怠らない(特に水回りのカビ・油汚れは要注意)
  4. 【居住中】設備を壊してしまったら、隠さずに管理会社へすぐ報告する
  5. 【退去前】ガイドラインに沿った「通常の清掃」を行う
  6. 【退去立ち会い時】必ず「立ち会い」に参加し、その場で精算書にサインしない
  7. 【請求書受領後】内訳(単価・平米数・経年劣化の考慮)を厳しくチェックする
  8. 【納得できない時】下記のテンプレートを使って交渉する

【コピペOK】不当請求を撃退する「交渉メール」テンプレート

高額な見積もりが届いた際、電話で感情的に話すのは得策ではありません。記録に残るメールで、冷静かつ論理的に指摘しましょう。

件名:退去費用精算書に関する確認のお願い(物件名〇〇号室 氏名)

〇〇不動産 管理部 御中

お世話になっております。先日退去いたしました、〇〇号室の〇〇(氏名)です。
お送りいただきました原状回復費用の見積書を確認いたしました。

内容につきまして、国土交通省のガイドラインに基づき、以下の点について確認と修正をお願いしたくご連絡いたしました。

1. 壁紙(クロス)の張替え費用について
今回、請求箇所のリビングのクロス張替え費用が全額借主負担となっておりますが、
私は当該物件に〇年居住しておりました。
国交省ガイドラインによれば、壁紙の耐用年数は6年であり、経年劣化(減価償却)を考慮すべきです。
居住年数を考慮した残存価値割合(〇%)での再計算をお願いいたします。

2. クリーニング特約について
特約の金額〇〇円については了承しておりますが、それ以外の「エアコン洗浄費」等の追加項目については、
契約時に説明を受けておらず、また私の使用状況においても特段の汚損はないため、支払う義務はないと認識しております。

上記に基づき、適正な金額での再見積もりをお願いできますでしょうか。
納得のいくご説明をいただけるまでは、敷金返還の合意、および支払いには応じかねます。

よろしくお願いいたします。

よくある質問(FAQ)

立ち会いにどうしても行けない場合は?
代理人(家族など)に行ってもらうか、難しい場合は写真を徹底的に撮って退去してください。ただし、業者が有利なように見積もるリスクが高まるため、可能な限り日程を調整して立ち会うことを強くお勧めします。
その場で「サインしないと鍵を受け取れない」と脅されたら?
「内容は持ち帰って専門家に相談して確認します。鍵の返却は完了しています」と伝え、鍵だけ置いて帰って構いません。その場でのサインは、内容を認めたことになり後からの交渉が困難になります。
交渉しても相手が応じない場合は?
国民生活センター(消費者ホットライン:188)に相談してください。それでも解決しない場合、60万円以下の請求であれば「少額訴訟」という制度があり、個人でも数千円の手数料で裁判を行うことができます。

まとめ

退去費用は、正しい知識と証拠(写真)さえあれば、決して怖いものではありません。

この記事で解説した「ガイドライン」や「経年劣化」の仕組みを理解し、不当な請求には毅然とした態度で交渉してください。暮らしっく不動産は、皆様がフェアな不動産取引ができることを応援しています。

※免責事項:本記事は一般的なガイドラインや判例に基づき解説していますが、個別の契約内容や状況により判断が異なる場合があります。具体的な法的トラブルについては、弁護士等の専門家へご相談ください。