結論:普通に暮らしてできた傷みは大家さんの負担。借りた人が払うのは汚した部分だけで、住んだ年数に応じて安くなります。

なぜ重要か:実際の相談では、30万円を超えた請求が約19万円まで下がりました。立会いなしの請求も、払う前なら見直せます。

次にすべきこと:

  • 立会いでは、その場でサインしない
  • 単価・面積・住んだ年数が分かる明細と写真をもらう

「退去費用で20万円と言われた。これって普通?」「敷金が1円も戻ってこない」。暮らしっく不動産には、こうした相談が毎年たくさん届きます。

退去費用の請求書には、払わなくてよい費用が含まれていることが少なくありません。この記事では、原状回復のルール、費用の目安、特約の考え方、請求に納得できないときの動き方を、宅建士と弁護士の視点でまとめます。

この記事の執筆・監修

執筆:門傳 義文(株式会社ラインズマン 代表取締役/暮らしっく不動産)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士。公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会 日管協総合研究所 委員。
監修(特約・法律):安藤 晃一郎(弁護士・不動産鑑定士)

原状回復とは:「借りたときの状態に戻す」ではない

「原状回復」は、入居したときと同じきれいな状態に戻すことではありません。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、原状回復を次のように定めています。

借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること

2020年4月に施行された改正民法(621条)でも、通常の使い方でできた傷みや、年月がたって古くなった分は、借りた人が直す義務を負わないことが条文で明記されました。これらの費用は、毎月の家賃に含まれているという考え方です。

大家さん負担・借りた人の負担の分かれ目

大家さんの負担(払わなくてよい)借りた人の負担(払う必要がある)
日焼けによる壁紙や畳の色あせタバコのヤニ汚れ・におい
画びょう・ピンの小さな穴くぎ・ねじの穴(下地のボードまで届くもの)
冷蔵庫・テレビの裏の電気ヤケ飲みこぼしを放置したシミやカビ
家具を置いたことによる床のへこみペットによる傷やにおい
設備の寿命による故障引越し作業でつけた傷
次の入居者のための鍵交換(紛失していない場合)掃除をしなかったことによる油汚れ・水あか、結露の放置によるカビ

判断に迷うときは、「普通に住んでいても起きることか、それとも使い方や手入れの問題か」で考えると分かりやすくなります。住んでいる間に設備が壊れたときの連絡先と費用負担は「賃貸の設備が故障したらどこに連絡する?」で説明しています。

住んだ年数で負担は減る:壁紙は6年で1円

借りた人の過失で壁紙を汚した場合でも、張り替え費用の全額を払う必要はありません。ガイドラインでは、壁紙の耐用年数を6年とし、年数がたつほど価値が下がって、6年で1円になる考え方をとっています。

例:壁紙の張り替えに6万円かかる場合

  • 入居してすぐ:価値がほぼ残っているので、6万円に近い負担
  • 3年住んだ:価値は半分。負担は約3万円
  • 6年以上住んだ:価値は1円。張り替え費用の負担はほぼなし(ただし、落書きなど故意の汚れを消す作業費などは別に求められることがあります)

また、負担するのは汚した部分だけです。一部を汚しただけで、部屋全体の張り替え費用を払う必要はありません。ガイドラインでは、張り替えの範囲は原則として「汚した箇所を含む一面(㎡単位)」とされています。

耐用年数の目安 一覧

借りた人の過失などで傷めた部分を直すとき、どれくらい負担するかは、その部分の耐用年数で変わります。年数がたつほど残っている価値(残存価値)は減り、耐用年数を過ぎると1円になります。そのため、長く住んだ部屋ほど負担は小さくなります。一方、「経過年数を考慮しない」ものは、住んだ年数に関係なく、傷めた部分の補修費が負担の対象になります。

部位・設備耐用年数・年数の扱い
壁紙(クロス)6年で残存価値1円
カーペット・クッションフロア・畳床6年で残存価値1円
フローリング部分補修は経過年数を考慮しない。床全体を張り替えた場合は、建物の耐用年数で残存価値1円
畳表消耗品に近いため、経過年数を考慮しない
ふすま紙・障子紙消耗品のため、経過年数を考慮しない
ふすま・障子などの建具、柱経過年数を考慮しない(考慮する場合は建物の耐用年数で残存価値1円)
流し台5年
エアコン・ストーブなどの冷暖房機器、電気冷蔵庫、ガスレンジ、インターホン6年
主に金属製以外の家具(書棚・たんす・戸棚など)8年
便器・洗面台などの給排水・衛生設備、主に金属製の器具・備品15年
ユニットバス・浴槽・下駄箱(建物に固定されていて一体のもの)建物の耐用年数
鍵(なくした場合)経過年数を考慮しない。交換費用は全額が借りた人の負担
クリーニング経過年数を考慮しない。普通の掃除をしていなかった場合に、借りた人の負担になる

出典:国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)』

実例:30万円を超えた請求が約19万円に

暮らしっく不動産に相談があった、1LDKの部屋の退去の例です。最初の請求は合計30万円を超えていました。そのうち壁紙の部分だけを見ると、次のように変わりました。

段階壁紙の請求額何が起きたか
最初の請求約14.2万円傷のある部屋の壁紙を、まるごと全額請求
「高い」と伝えたあと約8.6万円「傷つけたところだけでいいですよ」と、範囲を狭めた請求に
ガイドラインで計算し直し約4.2万円住んだ年数を反映し、負担割合を49%にして計算

最終的に、請求の合計は約19万円まで下がりました(最初の請求から約4割の減額)。こちらで計算し直した見積りを示したところ、高額な請求は取り下げられたとのことです。

「高い」と一言伝えるだけで下がる請求は、もともとの計算が不当だった可能性があります。おかしいと思ったら、遠慮なく明細を求めてください。

実例:タバコを吸っていた部屋は約17.5万円

反対に、借りた人の負担が大きくなる例です。25㎡の部屋に約5年住み、室内でたくさんタバコを吸っていたケースです。

項目金額
壁紙の張り替え(ヤニ汚れ)67,000円
天井の塗装(ヤニ汚れ)30,000円
フローリングの焦げ跡の補修15,000円
ハウスクリーニング35,000円
鍵の交換(鍵をなくしたため)15,000円
消費税12,960円
合計174,960円

このケースでは、大家さんの好意で床の補修を安くしてもらっています。床の張り替えまで求められていたら、さらに10万〜15万円ほど増えていた可能性があります。タバコのヤニ汚れは「通常の使用」を超えると判断されやすく、室内での喫煙は退去費用が大きくなる原因になります。

入居者が隠れてタバコを吸っていた部屋の原状回復については、入居者が隠れてタバコを吸っていた。原状回復費用はどうなる?でも取り上げています。

実例:全額「借りた人の負担」の見積りが、敷金の範囲内に

住んだ年数をまったく考えず、すべての項目を「借りた人の負担100%」で計算した見積りが届いた例です。暮らしっく不動産に相談があり、最終的に約7〜8万円下がって、預けていた敷金の範囲内に収まりました。

項目内容
物件都内のマンション(築17年)
住んだ年数約6年6か月
敷金208,000円
最初の請求約25〜26万円(すべて借りた人の負担100%で計算。敷金を大きく超える追加請求)
交渉後181,001円(追加の支払いはゼロになり、敷金から約2.7万円が戻った)

下がった主な項目は次のとおりです。

項目最初の請求交渉後
床のシミの補修30,000円0円(実際には直されていなかったことが分かり、請求から削除)
和室の建具のはがれの補修請求あり0円(請求から削除)
プリーツ網戸の交換42,900円(100%)16,731円(年数を反映して39%。26,169円減)
スイッチのシール・紙巻器の破損100%負担39%負担に(4,880円減)

うまくいったポイントは3つです。

  1. 「高い」と気持ちで訴えず、根拠を集めた:東京都の相談窓口や消費生活センター、設備メーカー、補修業者に自分で問い合わせ、耐用年数や適正な価格を調べた
  2. 払うべきものは払うと認めた:国交省のガイドラインを読み込み、自分の不注意でできた汚れや、特約のクリーニング代は100%負担と認めたうえで、年数を反映すべき項目だけを39%負担に直した計算表を自分で作って出した
  3. 引かない姿勢をはっきり伝えた:請求された場所が実際には直されていなかった事実も指摘し、誠意ある対応がなければ少額訴訟などの手続きも考えていると伝えたところ、相手の態度がやわらいだ

実例:心配していたが、クリーニング代だけで終わった

2026年の初めに、退去立会いを控えた方から「どんな退去費用を請求されるのか心配」「立会いの業者から、床の傷は最終的に大家さんの判断になると言われた」と相談を受けた例です。

暮らしっく不動産からは、東京都の物件なので「東京ルール」で通常の使い方でできた傷は大家さんの負担が原則とされていること、敷金を精算する前に必ず精算書を見せてもらうよう管理会社に伝えることをアドバイスし、この記事も読んでもらいました。

後日、契約書・重要事項説明書・精算書を見せてもらうと、床の傷などへの追加の請求はなく、特約にもとづく室内清掃費(税抜48,000円/1LDK・約35㎡)だけでした。相場の範囲内で妥当とお伝えし、解決しています。

「敷金は戻ってこない」と都市伝説のように思っている人も多いのですが、普通に使っていれば戻ってきます。退去前の相談も受けていますが、実はこの例のように「何事もなく終わる」のがいちばん多いケースです。ただし、きちんとした管理会社の物件であることが前提です。

実例:敷金10.4万円の部屋に、約26万円の見積り

2021年に、横浜市の3LDK(57.83㎡)に約4年住んだ方から受けた相談です。家賃・敷金はともに10.4万円で、退去時に原状回復工事の見積り258,199円(税込)が届きました。

契約書・重要事項説明書・見積書・傷の写真を送ってもらい、見積りの項目ごとに妥当かどうかをお答えしました。大家さんは不動産投資会社で、契約の内容も大家さん側に有利な書き方になっていました。

見積りの多くは、借りた人が払うべきかどうかがはっきりしない「グレーゾーン」の請求でした。あくまで個人の見解ですが、すべてに応じる必要はなく、少なくとも敷金を超えて追加でお金を払う必要まではないのではないか、とお伝えしています。相談された方は、そのうえで消費生活センターと不動産適正取引推進機構にも相談し、先方に意見を伝えるとのことでした。

見積りの金額が敷金を大きく超えるときは、一人で抱えず、第三者に見てもらうことをおすすめします。

現場の実感:多くはクリーニング代だけで終わる

暮らしっく不動産が仲介・管理にかかわった部屋では、退去費用は特約で決めたクリーニング代の負担だけで終わることがほとんどです。高額な請求でもめるのは、管理のしかたに問題がある物件に多い、というのが現場の実感です。

ほかの記事でも何度か書いていますが、賃貸は「管理」が大事です。部屋を選ぶときは、入口(入居)だけでなく出口(退去)まで考えてください。敷金・礼金ゼロのように入口が安い物件は、出口で高くなることもあります。物件と管理会社を見きわめることが、いちばんの退去費用対策です。

相談でいちばん多いのは「この請求は適正なのか」という質問です。きちんと管理している会社でないと、住んだ年数を反映した計算をしていないことも少なくありません。

退去費用の目安(間取り・住んだ年数別)

間取り住んだ年数退去費用の目安
1R・1K(15〜30㎡)3年まで4万〜7万円
4年以上0〜5万円
1LDK・2K(31〜50㎡)3年まで7万〜9万円
2LDK以上(51㎡〜)3年まで10万〜15万円

クリーニング費用を含めた目安です。タバコやペットによる汚れがある場合は、上の実例のように大きく増えることがあります。

「20万円」「15万円」と言われたら:1R・1Kで、タバコやペットの汚れがなく、3年以上住んでいた場合は、目安を大きく超えています。明細をもらい、壁紙などの張り替えに住んだ年数が反映されているか、汚した範囲だけの請求になっているかを確認しましょう。

住んだ年数別の考え方(1〜2年・3年・6年以上)

  • 1〜2年で退去:壁紙などの価値がまだ多く残っているため、汚した部分の負担は大きめになります。ただし、普通に暮らしてできた傷みは、年数に関係なく大家さんの負担です
  • 3年で退去:壁紙の価値は約半分。上の例なら、6万円の張り替えで負担は約3万円です。請求書の壁紙代が張り替え費用の全額になっていないかを見ましょう
  • 6年以上住んだ:壁紙の張り替え費用の負担はほぼなくなります。それでもクリーニング代など特約で決めた費用や、落書きなど故意の汚れを直す作業費は、別に請求されることがあります

2LDKなど広い部屋の場合

部屋が広いほど、壁紙やクリーニングの面積が増えるので、退去費用も上がります。上の表の目安では、2LDK以上で3年までの退去なら10万〜15万円です。広い部屋で高い請求が来たときも、見るところは同じです。「汚した面だけの請求か」「住んだ年数が反映されているか」を、部屋ごとに確認してください。

「平均」や「相場」の数字はどう見る?

ネットで見かける退去費用の平均や相場は、調べた物件や時期がまちまちです。自分の請求が高いかどうかは、総額を平均と比べるより、明細の一つひとつを見て判断するほうが確実です。この記事の目安は、あくまで「大きく外れていないか」を見るためのものとして使ってください。

退去費用はどう精算される?敷金ありと敷金なしの違い

退去費用は、だいたい次の流れで決まります。

  1. 退去の立会い:管理会社などの担当者と部屋を見て、傷や汚れを確認する
  2. 見積り・精算書が届く:直す場所ごとの金額と、借りた人の負担分が書かれる
  3. 敷金で精算:敷金から借りた人の負担分を差し引き、残りが返ってくる。足りなければ、差額を請求される

敷金がない物件(敷金ゼロ)では、預けているお金がないので、借りた人の負担分はすべてあとから請求書で届きます。「敷金なしで退去費用20万円」と言われて驚く人が多いのはこのためです。ただ、敷金があってもなくても、借りた人が払うべき範囲は変わりません。敷金がないから高く請求してよい、ということにはならないので、明細の確かめ方は同じです。敷金ゼロ物件の注意点は「敷金礼金ゼロの物件は怪しい?」で説明しています。

特約:「契約書に書いてあるから」は絶対ではない

ガイドラインどおりなら大家さん負担になる費用も、契約書の「特約」で借りた人の負担とされていることがあります。よくあるのが、ハウスクリーニング代や鍵交換代です。

特約がないのにクリーニング代を請求することはできません。民法やガイドラインの原則では、通常の掃除をしていれば、専門業者のクリーニング代は大家さんの負担だからです。

特約が有効になるための条件

最高裁は2005年(平成17年12月16日)の判決で、通常の傷みの補修費用を借りた人に負担させる特約が成り立つには、次のどちらかが必要だと示しました。

  • 契約書に、借りた人が負担する範囲が具体的に書かれていること
  • 書かれていない場合は、貸す側が口頭で説明し、借りた人がはっきり理解して合意していること

さらに、金額が高すぎるなど、借りた人に一方的に不利な特約は、消費者契約法によって無効になることがあります。関西に多い「敷引き」の特約について、最高裁は2011年に「金額が高すぎなければ有効」と判断していて、金額が判断の分かれ目になります。

東京都の物件は「東京ルール」を確認

東京都では、条例(いわゆる「東京ルール」)により、不動産会社は契約の前に、退去時の費用負担の原則と、特約の内容を書面で説明しなければなりません。東京都の物件なら、契約時にもらった「賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書」に、どの費用が特約で借りた人の負担になっているかが書かれています。退去の前に必ず見直しましょう。

確認したほうがよい特約

  • クリーニング代:金額が具体的に書かれ、説明を受けていれば有効とされやすい。それ以外にエアコン洗浄などを追加で請求されたら、根拠を確認する
  • 鍵交換代:ガイドラインでは大家さん負担。特約で借りた人の負担とされている場合は、契約時に説明があったかがポイント
  • 畳・ふすまの張り替え、壁紙の全面張り替え:汚していないのに新品にする費用を全額負担させる内容は、金額や説明の状況によっては争える余地がある

特約が有効かどうかは、契約書の書き方や説明の状況によって変わります。金額が大きい場合は、専門家に相談してください。

立会いなしで高額な請求が来たら

立会いができずに退去し、あとから高額な請求書だけが届く、という相談も増えています。支払う前に、次の順で確認しましょう。

  1. 明細を出してもらう:項目ごとの単価、面積(㎡)、住んだ年数をどう反映したかを書面でもらう
  2. 写真を求める:請求されている汚れや傷の写真を出してもらう。立会いがない場合、どこが傷んでいたかを示すのは請求する側です
  3. 自分の写真と比べる:入居時・退去時に撮った写真があれば、請求と照らし合わせる
  4. 納得できない部分は、払う前にメールで伝える:支払ったあとの交渉は難しくなります

納得できないところは、必ず写真を撮っておきましょう。余分な原状回復費用を請求してくる会社は、何を言っても話が進まないことがあります。そのとき頼りになるのは写真です。入居したときにも、同じように部屋中の写真を撮っておくことをおすすめします。

立会いにどうしても行けない場合は、家族などに代わりに立ち会ってもらうか、退去の日に部屋中の写真を日付入りで撮っておきましょう。立会いで貼られるマスキングテープの意味は「退去チェックのマスキングテープは何の印?」で説明しています。

納得できる部分と、できない部分を分ける

請求のすべてに反対する必要はありません。たとえば「クリーニング特約の金額は了承する。壁紙の全額請求は年数を反映してほしい」のように、項目ごとに分けて伝えると、話が進みやすくなります。返事をしないまま放っておくのは避け、「確認中なので回答を待ってほしい」と連絡しておきましょう。

すぐに払えない金額のとき

内容には納得していても、一度に払うのが難しい金額のこともあります。分割払いに応じてもらえるかどうかは、管理会社や大家さんによって違います。黙って支払いを遅らせるのではなく、早めに相談してください。

退去費用が怖い人へ:退去前に自分で目安を出す

「いくら請求されるか分からなくて怖い」という人は、退去の前に自分でおおよその金額を出しておくと安心です。立会いや請求書を見るときの物差しにもなります。

  1. 契約書を読み直す:クリーニング代や鍵交換代など、特約で決まっている金額を書き出す。東京都の物件なら、契約時にもらった説明書も見る
  2. 入居時の写真を探す:最初からあった傷や汚れを確認する
  3. 部屋を見て回る:タバコのヤニ、ペットの傷、くぎ穴、放置したカビなど、借りた人の負担になりそうな場所をメモする
  4. 年数を当てはめる:壁紙なら、6年で価値が1円になる考え方で計算する(6万円の張り替えで3年住んだなら約3万円)

国土交通省のガイドラインには、入居時・退去時の部屋の状態を記録する「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)」や、精算明細の様式の例も付いていて、国交省のサイトからダウンロードできます。チェックの項目を考えるときの参考になります。

損をしないための行動リスト

  1. 契約時:特約の内容を確認し、分からない点は質問する。重要事項説明書の見方は「賃貸の重要事項説明書をわかりやすく解説」で解説しています
  2. 入居時:最初からある傷や汚れを、日付入りの写真で残す
  3. 住んでいる間:水回りのカビや油汚れはこまめに掃除する。設備を壊したら隠さずすぐ管理会社に連絡する。壁紙の汚れの落とし方は「賃貸の壁紙の汚れは重曹で落とせる?」で紹介しています
  4. 退去前:通常の掃除をしておく。退去前に送っておくと牽制になる依頼文は「退去の魔除けテンプレート」で配布しています
  5. 立会い:必ず立ち会い、その場では精算書にサインしない。「内容を確認してから返事をします」で大丈夫です
  6. 請求書が届いたら:単価・面積・住んだ年数の反映・汚した範囲を確認する

交渉メールの例文

電話で感情的に話すより、記録が残るメールで落ち着いて伝えるのが効果的です。

件名:退去費用の精算書について確認のお願い(○○マンション○号室 氏名)

○○不動産 管理部 御中

先日退去いたしました、○号室の○○です。お送りいただいた原状回復費用の見積書について、国土交通省のガイドラインにもとづき、以下の点の確認と再計算をお願いいたします。

1. 壁紙の張り替え費用について
全額が借主負担となっていますが、私は当該物件に○年居住しておりました。ガイドラインでは壁紙の耐用年数は6年とされていますので、居住年数を反映した負担割合での再計算をお願いいたします。また、張り替えの範囲が汚損箇所を含む一面になっているかもご確認ください。

2. 追加の清掃費用について
クリーニング特約の○○円は了承しております。それ以外のエアコン洗浄費等については、契約時に説明を受けておらず、特段の汚損もないため、根拠をお示しください。

ご回答をいただくまで、精算への同意とお支払いは保留させてください。よろしくお願いいたします。

それでも解決しないときの相談先

  • 消費者ホットライン「188」:最寄りの消費生活センターにつながります。敷金・原状回復の相談も受け付けています
  • 都道府県の不動産取引の相談窓口:東京都の場合は、住宅政策本部の不動産業課が賃貸トラブルの相談を受けています(弁護士による相談の日もあります)
  • 法テラス:収入などの条件を満たせば、無料の法律相談を受けられます
  • 少額訴訟:60万円以下のお金の請求なら、原則1回の審理で終わる簡易な裁判を、個人でも起こせます

弁護士に依頼するかどうかは、争う金額と費用のバランスで考えます。数万円の差額なら、まずは188や自治体の窓口に相談するのが現実的です。内容別の相談先は「賃貸・不動産トラブルの相談窓口まとめ」にまとめています。

弁護士に相談したほうがよいケース

  • 請求額が大きく、自分で交渉しても下がらない
  • 特約が有効かどうかで、管理会社と意見が分かれている
  • 少額訴訟や、相手から訴えられることを考える段階になった

法テラスや自治体の法律相談など、無料や安い費用で弁護士に話を聞ける窓口もあります。依頼する前に、相談だけしてみるのも一つの方法です。

店舗・事務所の退去は別のルール

ここまでの内容は、住まい(居住用)の賃貸の話です。店舗や事務所などの事業用の賃貸は、住宅向けのガイドラインがそのまま当てはまらず、契約書の内容で負担が決まる部分が大きくなります。原状回復の工事費も高額になりやすいので、契約時に原状回復の範囲と保証金の扱いを、契約書の条文ではっきりさせておくことが大切です。

よくある質問

退去費用で20万円と言われました。普通ですか?

1R・1Kで、タバコやペットの汚れがなく3年以上住んでいたなら、この記事の目安を大きく超えています。タバコを多く吸っていた部屋なら、実例のように17万円台になることもあります。まずは明細と写真をもらい、年数の反映と範囲を確認してください。

6年以上住めば、退去費用はかかりませんか?

壁紙の張り替え費用の負担は、ほぼなくなります。ただし、特約で決めたクリーニング代や鍵交換代、故意の汚れを直す作業費などは、別に請求されることがあります。0円になるとは限らないので、契約書の特約を見直しておきましょう。

立会いなしで高額な請求書が届きました。そのまま払うべきですか?

払う前に、明細と傷や汚れの写真を求めてください。納得できない部分は、払う前にメールで伝えます。払ってしまうと、あとからの交渉は難しくなります。

退去費用の請求が適正かどうか、どう見分けますか?

まず、住んだ年数を反映した計算になっているかを見てください。壁紙やクッションフロアなどが「100%負担」のまま並んでいたら、年数が反映されていない可能性があります。次に、請求の範囲が汚したり傷つけたりした部分だけになっているかを確認します。この記事の耐用年数の表と照らし合わせると、目安がつかめます。

敷金なしの物件だと、退去費用は高くなりますか?

借りた人が払うべき範囲は、敷金があってもなくても同じです。違うのは、敷金から差し引けないので、負担分がすべてあとから請求されることです。金額が大きく見えやすいので、明細を一つずつ確認しましょう。

退去費用のことは、弁護士に相談するべきですか?

数万円の差なら、まず188や自治体の窓口に相談するのが現実的です。金額が大きい、特約の有効性で争っている、といった場合は、弁護士への相談を考えてください。

まとめ

  • 普通に暮らしてできた傷みや、古くなった分は大家さんの負担
  • 借りた人の負担も、住んだ年数に応じて減る(壁紙は6年で1円)。範囲も汚した部分だけ
  • 特約は、内容が具体的に書かれ、説明を受けて合意していることが前提
  • 立会いではサインしない。請求には明細と写真を求める
  • 敷金なしでも、払う範囲は同じ。立会いなしの請求も、払う前に見直しを求める
  • 困ったら188、自治体の窓口、少額訴訟

退去費用は、知っているかどうかで大きく変わります。「おかしい」と思ったら、暮らしっく不動産にもお気軽にご相談ください。

※この記事は、国土交通省のガイドラインと公表されている判例をもとにした一般的な解説です。個別の契約や状況によって判断は変わります。具体的なトラブルは、弁護士などの専門家にご相談ください。