2017/03/29

『小麦粉倶楽部』

暮 life
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「小麦粉倶楽部」

うまれてはじめて小麦粉をぶちまけたとき、なんて綺麗なんだと思った。

さらさらとした手触りの良い粉たちが、フローリングに広がって、踏み歩くと足の裏の皮脂に吸い付いて、自分までさらさらになれる気がする。

見たこともない綺麗なターコイズブルーの海のそばにある、希少な砂浜を歩いたらきっとこんな心地になるんだろう、と思う。

それなのに今は、小麦粉をぶちまけた3歳の息子に、ほんといい加減にしてっ!と怒鳴っている。

私は一体どうしてしまったのだろう。

赤ちゃん返りのような時期を抜け、イヤイヤ期を抜け、グズグズ・メンドクサイ期が落ち着いて、新年とともに急成長期に入った!いろんなことに集中して細かいおもちゃにも興味を示したり、投げ出さなくなった!とSNSに息子の写真と一緒に載せたばかりじゃないか。

こんなにかわいいのに、こんなにかわいくない、この子が大人になるまであと何年、下手したら自立するまで20年と考えただけで眩暈がした。

ごめんなさい、と言いながら、ぶちまけた小麦粉を指でぺたぺたと楽しそうに繰り返し触っている息子を見下ろした。後頭部が旦那のそれとそっくりだった。

どうせパンを作ってるうちにまたこぼすだろうからこのままで進めてしまおう、と言い聞かせ、袋に残った小麦粉と、砂糖、塩、ドライイースト、オリーブオイル、お湯の入ったコップをキッチンに並べた。

息子は、ドライイーストという名前が気に入ったらしく、何かのテーマソングのようにドライイーストドライイーストドライイイーーー、と歌っている。

小麦粉・砂糖・塩を混ぜたボウルにドライイースト・オリーブオイル・お湯を入れて混ぜる。まぜまぜしよー、と息子に言うと、素直に、手を出して僕がやると言って混ぜる。下まで混ざりきらないので、底をすくい上げてやる。

生地を丸くしてボウルにラップをかけ30分程度置く。置いている間に、小麦粉をぶちまけた床を濡れたふきんでふく。ふきんの水でぺたぺたになった小麦粉を、息子がまた楽しそうに手のひらにくっつけている。

生地を小さくまるめる。魚焼きグリルにアルミホイルを敷き、息子の手にちょうどいい大きさになった生地を6個載せて、上からアルミホイルで覆った。一番小さい火力でグリルの火をつけ、焼き色がついたらひっくり返す。

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我ながら一番簡単なパン作りをしていると思う。そんなにパンを作りたいのかと聞かれてもそんなことはないし、息子にパンを食べさせたいかと聞かれたら、どちらかと言えば白米を与えたいと思う。

もうできるー?もうできるー?とグリルを開けたがる息子に、あとちょっと、じゃあ10数えよう、数え終わったら開けよ、と言うと、うん!と嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねて数えはじめた。

いーち、あぁさっきはイラッとして悪かったな。

にーい、でもイラッとするのを無言で小麦粉をこねることでおさまりそうだったからそもそもパンを作りはじめたんだよな。

さーん、そしてこれをSNSとブログにあげたりママ友におすそわけしたりすることで私はちゃんとしたママでいるよと言える気がする。

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しーい、世の中のパンを焼く人は絶対邪悪な気持ち込めて練ってるときあるはず。

ごーお、ほらまだあと5つあるよ。

ろーく、あぁ上の粉パンパンしないで!また床に落ちちゃうからグリル見ててグリル。

なーな、なんで後頭部がこんなに旦那に似てるんだろう、旦那は何もしてくれないのに。

はーち、何もしてくれないってことはないか、3割くらい?ううん、2割くらいか。

きゅーう、この子が大人になったらもっと難しいパンやケーキを一緒に作ったりできるかな。

じゅーう、そしたら嫌なことがあったらイライラしたら小麦粉を捏ねるといいよと教えてみようかな。

じゅうおわったよ、ねぇおわったよ、と私を見上げる息子に、おわったねぇできたねぇ、と返してコンロを開けた。ちぎりパンを適当にちぎったあとのようなパンになめらかな焼き色がついている。

あついからふぅふぅしなきゃ、と言って、パンを皿に置き、手を伸ばそうとする息子を見下ろした。

今度は、ジャムジャムジャームッ、と要求され、小さく溜め息をついて冷蔵庫からジャムを開けてテーブルにパンと一緒に持っていった。

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どこで覚えたのか、ジャムにはお砂糖がいっぱーい、と言って嬉しそうにしている。まだ熱いパンをちいさくちぎってやり、自分の口にも入れると、ジャムのつぶつぶと店とは明らかに違う舌触りのパンが、それでもふんわり美味しく感じた。

活動は週に一回、イライラをどうにかしたい子育てママにおすすめ、子供も喜ぶ、朝ご飯にもなる、そんな活動、小麦粉倶楽部!あなたも入部しませんか?ブログの締めの言葉はそんな感じにしようかな、と思う。

パンをもっと美味しくしたいと思う時には、すぐに何を足せばいいのか分かるのに、今の私には何を足せば満たされるのか分からない。誰から見てもきっと幸せなのに、誰が見なくても私はこんなに幸せなのに、何が足りないんだろう。

もしかしてもう満たされているのかもしれない。でも満たされるってなんだろう。どうなれば満たされるんだろう。

そんなことを考えながら、息子がパンにがっついた写真を撮り、加工アプリを開いた。誰か、幸せそうですね、ってコメントしてください。

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著者
柿沼まさみ
柿沼まさみ

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