暮らしっく不動産 福岡オフィスの前川です。

みなさん、両手仲介とか両手取引という言葉を聞いたことありますか?
不動産業界の方以外で聞いたことがある方は、かなり不動産に精通していますね。

私は、この業界に入る前まで人生で一回も聞いたことがなく、初めてこの言葉を聞いても意味が想像できませんでした。今回は、この「両手仲介」「片手仲介」について、簡単に説明したいと思います。

まずは、タイトルの疑問符?ですが、結論から言うと関係 "大あり"です。
しかし、見た目には変わらないかのような仕組みが業界内で出来上がっているので問題視して取り上げています。

「両手取引」は広義の言葉で、特に不動産の仲介業務の中で使われる時は取引のところを仲介って言葉に変えて
「両手仲介」と言ったりします。どちらも同じ意味です。
ここでは不動産の話ですので仲介という言葉に統一しますが、業界では、もはや「片手」「両手」とまで略して使うようになっています。

また、この言葉は不動産業の中の賃貸と売買のどちらでも出てきますが、URUFUは売買を専門としているので
売買の話で進めていきます。賃貸なら、売り手を貸し手、買い手を借り手、と置き換えると仕組みは同じです。

1.主体は誰?

この言葉の主体は、"不動産屋"なのです。
ですから、言葉の使い方としては
"〇〇不動産は、両手仲介しかしないから、他社に物件紹介をしない"
"今回取り扱った案件は、他社物件だから片手仲介だよ"
と言った具合。

2.「両手」「片手」自体が略語

「両手」・・・"両"方から"手"数料をもらう仲介
「片手」・・・"片"方から"手"数料をもらう仲介

両方とは
売買なら、売る人と買う人。のことです。

つまり、「両手仲介」とは、不動産屋がある不動産という商品を、売りたい人と買いたい人を繋いで(仲介して)、成約したら、その両方から仲介手数料をお代金としてもらう、ということです。

両手仲介における不動産屋の立場とは、売りたい人の仲介人であり、且つ買いたい人の仲介人でもある、ということ。
大事なところなので言い方を変えてもう一度、同じ不動産屋が、売る側・買う側の両方の仲介をしている、というのが両手仲介です。登場する不動産屋は1つだけです。


それなら片手仲介の説明は簡単。
「片手仲介」とは不動産屋が売る側の人だけの仲介人を務める仲介業務、又は不動産屋が買う側の人だけの仲介人を務める仲介業務、のことです。
片手仲介の場合、成約に至るためには、売る側の不動産屋と買う側の不動産屋、の2つの不動産会社が出てくるということです。

3.不動産屋は仲人なのか弁護士なのか?

両手仲介の方が、同じ不動産屋が売り手と買い手の仲を取り持ってくれる、仲人みたいな存在だから
一見するとシンプルで、こっちの方が良いように感じますよね。

ですが、この売り手と買い手を、裁判の訴えた人(原告)、訴えられた人(被告)、という構図で見ると、同じ弁護士がどちらの弁護もするという、おかしなことになりませんか?

好意を持つ同士を取り持つ職業と、利益の反する者同士を取り持つ職業との違いです。

売買は、一方は高い値段で売りたい、もう一方は安い値段で買いたい、という両者の思いが正反対の利益相反と言われる関係です。
上記の裁判の例と同じです。裁判の場合、利益相反行為として同じ弁護士(又は弁護士事務所)が、
双方の弁護を受け持つことは弁護士法で禁止されています。

現在のところ、日本では、この利益相反行為ともなり得る両者の不動産仲介行為(両手仲介)は禁止されていません。
一方、不動産先進国のアメリカでは潜在的利益相反行為として多くの州で禁止されています。

日本で禁止されていないのは、戦後復興を急ぐ必要があって法的に緩いまま現在まで続いており、その間に業界団体が強くなって国会でも取り上げにくい状況になったのかなぁ、という想像です。

4.売買における両手仲介と片手仲介の報酬の違いは?

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不動産仲介業の収入源は、仲介手数料だけです。
業法で仲介手数料の上限が定められています。どんなに良い交渉をしても、どんなにサービスが良くても報酬の上限は決められているのです。
契約が成立したら、売買代金の売り手側から成約価格の3%+6万円、買い手側からも同じく成約価格の3%+6万円、です。(いづれも上限として)

両手仲介は、どちらからも手数料を得ることができるので、成約価格の6%+12万円、ということです。
(上限として)

3000万円の売買が成立したら
片手仲介は、買い手不動産 3000万円3%+6万円 = 96万円
同じく売り手側不動産も 96万円 が上限の手数料金額となります。
両手仲介だとしたら、96万円+96万円 = 192万円 が上限の手数料金額です。

成約価格が100万円違ってくると、片手仲介だと3万円づつ、両手仲介だと6万円づつ変わってくる。
これ少し覚えといてください。
※ここでは分かりやすい説明にするため、成約価格が円以上の計算式であり、消費税を含めておりません。

5.両手仲介と片手仲介で、お客様にとって何が変わるの?

先述の例で、不動産屋の報酬額が変わることは分かりましたが、お客様にとって何が変わるのでしょうか?
不動産屋が片手仲介だろうが両手仲介だろうが、売り手のお客様、買い手のお客様がそれぞれ支払う仲介手数料は変わりません。

6.じゃーなぜ「両手仲介」を問題視しているのか?

変わってくる所は、まさに成約価格です。正確に言うと成約に至るまでの価格調整に影響が大きく出てきます。
タイトルの疑問符?ですが、売り手と買い手がいる不動産市場で、特に売り手側に影響が出ます。

確かに両手仲介は1つの不動産が仲を取り持つので、スムーズであることは間違っていません。
価格より時間を優先する場合、すでに客を持っている不動産屋に頼むという判断があっていいと思います。

しかし、時間的制約や税金対策などの例外を除けば、売り手側は誰もが、誰もが、できるだけ高くで売って金銭に変えたいと考えます。
そう考えるのは当然のことです。
かと言って、買い手がいなければ相場から異常にかけ離れた金額を求めることはできませんよね。
ここで、市場原理が働く訳です。


ここでちょっと経済のお話  ~「市場原理」について~
商品の数が市場に多く出回れば安くなるし、希少な商品は高くなる。
多くの人が求めている(需要が多い)のに、商品の数が少ない(供給が少ない)時は、しばらくすると他社もその商品を作り始め、市場に出回るようになり、どこかのポイントで需給のバランスがとれる。
そこがその商品の適正価格ということになる。

本題に戻って、「両手仲介」で問題視しているのは、価格決定にこの市場原理が働きにくいこと、
もっと言うと、不動産屋が価格を操作し適正価格を歪めることができるということ、です。
売り手にとって、とても不利なのです。

7.なぜ「両手仲介」が売り手にとって不利なのか?

先程の3000万円の物件の売買を例にとります。

売り手は3000万円で売却したいと考えていて、A不動産に媒介を依頼した状況で、
A不動産は、本来なら日本全国民に"この物件3000万円で買いたい人いませんか~?"と声をかける。
買いたい人が多ければ、中には"私は3200万円出すから私に売ってくれ!"という人も出てくる。
もし買いたい人がいなければ、そこで初めて価格を見直し、2800万円に価格改定する。やっと買い手が見つかるかも知れない。 
ここでの設定は、日本全国民に声をかけた、というもの。現実には不可能ですが、適正価格を知るためには可能な限りこの状況を作り出すことが望ましいですよね。


実際は、国民一人一人に声かけするのではなく、"この物件に興味のあるお客さんはいませんか?"と
日本全国の不動産会社に声をかけるシステムで、レインズ(全国不動産流通機構)という、不動産専用の登録サイトがあるのです。
この買い手探しは、A不動産が自社でお客さん探しをするだけに限らず、他社からのお客さんの紹介を積極的に受け入れる、つまり"手数料は売り手のお客さんからだけ頂きますので、買い手側のお客さんを他社さん紹介してね"というスタンス。
これが『片手仲介』です。


一方、もしA不動産が、初めから『両手仲介』を目指している会社だとすると、他の不動産屋にも声をかけず、自社だけのホームページや自社店先の看板で物件紹介をするだけで、A不動産自らが直接買い手客を見つけようとするスタンスになります。
先程の市場に比べて極めて狭い市場での買い手探しです。
A不動産がもっと悪い不動産屋だったら、ホームページを見た他社不動産から、お客さんの紹介をしたいと言われても"もう決まった"とか"今商談中だ"とか言って断るなんてこともあります。
売り手のお客さんには、もちろんそんな情報を伝えませんよ。
"売りたいから手伝って"と頼った不動産が、まさか販売妨害をして売らないなんてお客さんにとってたまりませんよね。


また、A不動産が既にその物件を買いたがっているお客さんを持っていたとした場合でも、次のようなケースだとどうでしょう?

物件情報を広く市場に出せば3000万円で買い手が見つかるかもしれないのに、A不動産が見つけたお客さんは2500万円でなら買いたいと言っています。
広い市場ではなく、狭い自分の市場だけで見つけた唯一のお客さんです。でも両手仲介できます。

A不動産は、売り手のお客さんに値下げ交渉を始めます。理由は何とでも、"最近の不動産相場は・・・"
"この物件の形がどうのこうの・・"
結局、2600万円で成約となりました。(本当は3000万円で売れたかもしれないのに)


A不動産が、成約価格を下げてでも、なんとしても成約に導きたい理由は報酬額にあります。

この時A不動産の仲介手数料は
【2600万円  3% + 6万円】 + 【2600万円  3% + 6万円】= 168万円
 3000万円で成約していたら、A不動産も 192万円の仲介手数料がもらえたのだから
 192万円 - 168万円 = 24万円  買い手の意向に沿えなかったために24万円の損になるのですが、
もし買い手の意向に沿って片手仲介で3000万円の成約になっていたとすると仲介手数料はいくらもらえていたかというと、96万円でしたよね(前述より)。

A不動産にとっては、片手仲介で3000万円の成約より、両手仲介で2600万円の成約の方が、
168万円 - 96万円 = 72万円 もお得ということになります。

あなたがA不動産の立場で、同じ時期に両手仲介できる2600万円のお客さんと片手仲介の3000万円のお客さんがいた場合、どちらのお客さんを契約に導こうとしますか?

もちろん、狭い市場であっても希望価格で買い手を見つけることもあります。
地元のお客さんの方が、当該物件に相場より高い価値を見出してくれる場合もあります。
(たまたま隣の人が2世帯住宅にしたくて近くに広い土地を探していた、とか)
こういうケースもあるので、片手仲介でも物件の近くの地場不動産屋に別途声をかけることは欠かせません。

8.「両手仲介」で起こり得ること

  • 市場原理が意図的に崩され、不動産屋本位で物件価格が操作される状況ができてしまう。
  • 不動産屋から売り手への情報の一方通行は、売り手にとって不利な状況を作る。
  • 同じ物件で、両手仲介と片手仲介がかち合った時、成約価格が下がっても両手仲介を選んでしまう不動産屋の企業としての性が出る。

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9.まとめと目指すところ

消費者(売い主、買い主共に)にとっては、不動産売買時の内情はすごく見えづらく、何か不動産屋に騙されているような、動かされているような、そんな不信感を持っている方も多いのではないでしょうか?
片手・両手の説明で見てきたように、この場合は特に売り主にとって不利な状況が作り出される現場が存在します。

多くの不動産屋が、企業としてまずは両手を目指す、というこの状況をどのようにしたら改善できるかと考え、
当社は敢えて"片手仲介"に特化し、福岡に起業しています。
地方不動産業界の壁は、まだまだ厚いものですが、少しづつでも変えていければと取り組んでいます。