こんにちは、司法書士の尾形です。
今回はちょっとした豆知識についてです。
先に申し上げておきますと、これらを知っていたとしても実生活で役にたつような機会はそうそう無いと思います。
その点、悪しからず。
『遺言』
さて、早速ですが皆さんはこれをどう読みますか?
おそらく多くの方がこれを『ゆいごん』と読むのではないでしょうか?
世間的にもそれが一般的な気がします。うろ覚えですが、TVドラマなんかでもたしか『ゆいごん』と読んでいたような・・・
ちなみに僕は迷わずこれを『いごん』と読んでしまいます。
決して間違って憶えてしまったわけではありませんよ。
きっと僕の他にも『いごん』と読む方がいると思います。
そして、そのような方はおそらく過去に法律の勉強等を行っていたか、もしくは遺言について法律家に依頼または相談をされた方なのではないでしょうか?
なぜなら、法律上ではこれを『ゆいごん』ではなく『いごん』と読むケースが多いからです。
一般的には『ゆいごん』は次のように定義されます。
『ゆいごん』:自分の死んだ後のことについて言い残すこと。また、その言葉。
(三省堂 大辞林参照)
ようするに、『ゆいごん』とは生前に親族等に対して遺志を残すことであり、直筆の手紙や病床での言葉、ビデオレター等何でも含まれます。法律上、それが有効であるどうかは問題にはなりません。
ここで多くの方が毛嫌いする条文の登場です。民法には次のような条文が存在します。
民法第960条(遺言の方式)
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
さて、そろそろ訳が分からなくなってきたのではないでしょうか?
ビデオレターでもいいと言っておきながら、法律に定める方式が必要とは何事なのでしょう?しかも、することができない??
ちなみにこの場合の『遺言』は『ゆいごん』ではなく、『いごん』を指しています。
遺言書を例にとってみましょう。
例えば自筆の遺言書の場合、それが法律上有効になるには幾つかのルールがあります。
具体的には全文直筆、氏名(例外的にニックネーム等)、日付がないといけない等々・・
仮にこれらの要件を一つでも欠いてしまうと、その遺言書は法律上有効にはなりません。
なんと銀行や法務局で使用することができないのです。
では、法律上無効であっても相続人間ではどうでしょう?
少なくとも故人がどうして欲しいかの気持ちは伝わるわけですから、それは立派な『ゆいごん』にはなりますよね。
ようするに、上記の条文上することはできないと言っているのは『いごん』であり、『ゆいごん』を指しているわけではないのです。
結論からすると、多少の語弊があるかもしれませんが、『いごん』とは、法的な効力を目的とした『ゆいごん』を指します。
そのため、昨今ちょっとしたブームになっている終活、そこでよく用いられるビデオレターなんかはすべて『ゆいごん』となり、エンディングノートについては、法律上の要件を満たしているか否かで『ゆいごん』か『いごん』に分かれる感じです。
とは言え、実はこうした見解も法律学者の中には異を唱える者もいますし、法律上で明確に『いごん』と『ゆいんごん』とを別ける定義がされているわけではありません。
いわゆる、ただの有力説に過ぎないわけです。
本末転倒かもしれませんが、その点については僕自身、正直、どっちでもいいのでは?と思っていたりもします。
元々、遺言書自体、目的に応じて臨機応変につくるものですし。
ポイントさえ外さなければ、『ゆいごん』であっても『いごん』であってもどちらでもいいと思います。
大事なことは目的を整理することです。
言葉や気持ちを伝えたいだけなのか、そこに法律上の意味合いを持たせたいのか等々・・
それによってやり方も異なってきます。
尚、僕はよく依頼者に『いごん』と『ゆいごん』が混ざった遺言書の作成を薦めています。
法律上有効な上に気持ちも伝わる遺言書、なかなか良いとは思いませんか?
さいごに
では、最後に豆知識をもう少しだけ・・・
実のところ、『遺言』だけに限らず、法律上は読み方が異なる言葉は他にも結構あります。
有名どこは『競売』でしょう。
法律関係者や不動産関係者はまずこれを『けいばい』と読みます。
ただし、TVなんかでは『きょうばい』と表記することが多いはずです。
あと、僕自身ほとんど使いませんが、『兄弟姉妹』です。
法律上では、これを『けいていしまい』と言ったりもします。
それらについての解説はきっとまたどこかで。