「へー、ゆみかちゃんって、まなとやっぱり仲いいんだね」

さっくんと、まなぽんが呼んでいる彼氏は、私が思っているよりも爽やかだった。派手じゃなくて地味じゃなくて、バイトはカフェで健全で、同じ地方出身だから気の合うところもあった。

でもなんで私は親友のカップルを前にして、こんなふうに、そうなんだぁそっちこそ仲いいねぇ、あはは、うふふ、笑っているのだろうと、2時間を超えたあたりから思っている。

店員さんが、お水を入れに来てくれたところで、そろそろ帰ろうかな、と思うと、新しい注文いいですかぁ、とまなぽんが言い、シトラスミントティーとラズベリーソーダ、チキン&ポテトを頼んで、ゆみかは? と満面の笑みで言った。

「え、じゃあ、ラズベリーソーダで」

私が言うと、同じの頼むんだね仲いいね、とまた、さっくんが言う。

「でしょでしょ、高校時代からそういうの多くって。ね?」

ね? というまなぽんに、あ、うん、と私も満面の笑みを作る。

「高校田舎でしょ? テーマパークに修学旅行で上京したときはさ、二人で同じ赤に白の水玉のカチューシャつけてね、首からバケツみたいなポップコーンの箱提げてね、スニーカーも色違いにしてたから、双子コーデでね、楽しかったなぁあの時、ね、ゆみか」

私はまた、うんうん、と頷く。そうだった、まだあれから2年も経っていないのに、せっかく上京してきたのにあのテーマパークにはまだ一度も行っていない。

「また行きたいね」

「あ、行こうよ行こうよ! 行くとさ、男子もけっこうおソロやってたりするんだって、知ってる? Tシャツ同じにしたり、グッズ色違いにしたり」

あ、と思う。カップルコーデだ、と思う。双子コーデを飛び越えていつのまにかまなぽんの頭の中はカップルコーデになっているんだ、と気づいた。

「マジかー、俺ちょっと恥ずかしいかも」

「一緒なら大丈夫でしょ、ね、ゆみかもそう思うよね?」

「あ、うん、よく見るし、いいんじゃないかな」

「ほらー、行きたいなー、夢の国--。工事中のエリアもあるけど、そこの壁が白にパステルピンクがあって、インスタでよく見るの。撮りたいな」

まなぽんが言うと、工事中の壁で撮るんかい、とさっくんがツッコミ、それだけじゃないけどぉーとまなぽんがさっくんの腕をぽんぽんと叩く。

私はそれを見て、あはは、と弾みもしない声で言う。

ラズベリーソーダとシトラスライムティー、ポテトが運ばれてくると、まなぽんは、はいさっくん、と言ってグラスを差し出す。さっくんは、おう、と言って受け取り、すぐにストローで吸い込む、その姿をまなぽんは一回スマホで撮った。

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「ゆみか、せっかくだし、みんなで撮ろっ」

うん、と言うと、慣れたようにストローに口をつけたままのさっくんがまなぽんに寄り、向かいに座っている私は顔を突き出して画面に入り込んだ。

「よく撮れたー、やっぱゆみかはかわいいよぉ」

そう言いながらスマホをシュッシュとスライドして加工をする。盛れたっ、と言って見せてくれた写真は、私の顔だけが近くて大きく見えた。

「載せていい? 最近インスタ始めたんだー」

「え、そうなの?」

「あ、俺と共用のアカウントにしてるから、きっと教えてなかったんだと思う」

さっくんは気遣うように言い、よかったら今日からフォローし合おうよ、と言った。私は、もちろん、と返しながら、ため息に似た息を鼻から吐いた。

まなぽんのアイコンはさっくんと2ショットのもので、今撮ったばかりの写真には、今日は彼と親友とカフェでまったり、と書かれていた。#カフェ #ずっ友 #ラズベリーソーダ #まったり #夢の国行きたい #一足早く夏休み と、やたらとハッシュタグが付けられていた。

まなぽんはこんな子だったろうか、と思う。

高校卒業前にクラスのみんなでフォーチュンな曲のダンスをして動画を撮ったときも、拡散とか動画とか苦手だから端っこにいたい、とずっと言っていたはずなのに、今や、ハッシュタグを付けて誰と付き合っていてどこで何をしているかを毎日発信しているようだ。動画でウサギになったりハムスターになったりして、首を左右にぴょこぴょこと振っている。

あ、私置いていかれたんだ、と思った。

行く大学で、付き合う友達や彼氏で、人はすぐに変わるんだ、と思った。

変われないまま、私がただ置いていかれているんだ、と思いながら、冷凍した果肉をサイダーに入れただけの飲み物を、ずずずっと吸った。

えへへ、あはは、と自分がのろけまくっていることも気づかないまなぽんに、私はだんだんと嫌気がさしてきた。テーマパークに行きたい、というのも、別のオシャレなカフェに今度行ってみたいというのも、明日はお肉が食べたい、というのも、スカートが欲しいけど似合うか分からなくてまだ買えていない、という話も、全部私に向けられているようで、さっくんに聞いてもらいたい話なんだ、とまなぽんの目線で分かる。

だよねだよね、ね、ね、と言いながら、最後にいつもさっくんに目をやる。さっくんは、優しい人のようで、いいねとかそうだね、と返事をして、そのたびにまなぽんは満足そうに私に笑みを投げかける。

「くらげかわいいんだよねーすっごいスキなの。夏休み見に行きたいんだー」

くらげがかわいいなんて一度も聞いたことない。そう思いながら、いいじゃんさっくんと行ってきたら楽しいよーと私は返した。よかったね彼氏できて、まなぽん明るくなったね、ともやついた気持ちで言ってみる。

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「そっかそっか。でも、ゆみかのがかわいいし、次会うときには彼氏できてるよー」

私にまなぽんはそう言う。さっくんが、せっかく来てくれたし今日はおごるからもっと頼んで大丈夫だよ、と言って私を見る。ありがとう、と言うと、さらに自分の笑顔が強ばった気がした。

なんだろうこの気持ち、なんか情けないな、と思いながら、明日から何か話したいときに誰に連絡したらいいんだろう、と宙ぶらりんな気持ちでまなぽんの話をうんうんと聞いた。